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つつましき花見弁当を手に、ひとり梅見酒

 前回できなかった「梅見酒」がどうしてもしたい。ここ数日、その機会ばかりをうかがっていた。

 こんな仕事をしていると、取材や打ち合わせの予定がちょこちょこと入り、丸1日仕事場で原稿を書いていられるという日はあまり多くない。それでも今週、1日だけそんな日があり、なんとか仕事の都合をつけ、夕方に梅見酒を敢行できるチャンスがやってきた。あいにくの曇り空だが、寒くはない。この機会を逃すわけにはいかない。つまみは花見弁当がいいだろう。まずはどこかで仕入れてこなければ。

 地元、石神井公園駅前へ向かう道すがら、どんな弁当をつまみに飲もうかと考えを巡らせていた。各スーパーにはそれぞれオリジナルの弁当があるし、「イトーヨーカドー」の中に持ち帰り専門チェーンのとんかつ屋、焼鳥屋、寿司屋などが入っていて、少しだけ贅沢だけど、たまにはそんな店の弁当もいいかもしれない。が、「ローソンストア100」の前にさしかかった時、ふと思い出した。そういえばこの間、Twitterで少しやりとりをさせてもらった人が、ここの「ひじきご飯弁当」を愛していると言っていて、以来気になっていたんだよな。あるだろうか? 入って惣菜類のコーナーをチェックしてみると、確かにある。コンパクトなサイズで200円というつつましい存在感もいい。もう今日は、これ以外考えられなくなった。ローソンストア100はまた、大好きなタカラ「焼酎ハイボール」のラインナップが豊富であるという点において、街で最も重要なコンビニといっても過言ではない。梅見酒の気分に合わせ、それの梅干し味、500mlを1缶購入し、公園に向かった。

 石神井公園の奥地に、ちょっとした梅園的なエリアがある。行ってみると、赤や白の梅が無事花をつけている。5~7分咲きくらいか。ちょうどいいちょうどいい。そしてさすが平日の夕方、いい位置のテーブル席がどこも空いているので、そこに陣取り、ひとり梅見酒を始めることにした。

 ひじきご飯弁当を取りだし、まずはひととおり愛でてみる。ひじきがたっぷりと乗った炊きこみご飯の横に、6種類のおかず。見れば見るほど可憐な弁当だ。500mlの缶チューハイを相手にするには若干頼りないようにも見えてしまうけど、限られた範囲内でやりくりする酒というのも楽しい。それに、弁当が先に無くなったら梅の花をつまみにすればいいんだし。

 缶チューハイをプシュッと開けておいて、ひじきご飯部分を小さく掘削し、ひと口。うわ、しっかりとした醤油味のご飯にひじきの風味。想像以上にうまい。弁当の実力にいきなり気づかされ、なんだか急に興奮気味になってきた。チューハイぐびり。その勢いで、一番パンチのありそうなおかず、かき揚げを持ちあげてみる。するとなんとその部分にだけ、下のご飯にまできちんと天丼風のタレが染みており、いわば「小さな天丼」ともいえるゾーンになっている。この弁当考えた人、天才?

 ちくわの磯辺揚げ、ミートボール、玉子焼き、煮た椎茸に、ニンジン。どれもちみちみとご飯と組み合わせながら食べると、良いつまみになる。何より、弁当の冷めた米というのは、どうしてこうも酒に合うのか。炊きたての白メシの美味しさを疑う人は多くないと思うが、それとは全く異なる世界観。

 ゆっくりと食べていたら、小さな弁当でもきっちりお腹いっぱいになった。そしてやはり、チューハイがまだ少し残っている。あらためて深呼吸すると、目の前の梅園からは確かに花の香りがして、飲んでいる梅干しチューハイが、いつもよりちょっとだけいい酒に感じてしまうのだった。

■パリッコ 酒場ライター。著書に『酒場っ子』『晩酌百景 11人の個性派たちが語った酒とつまみと人生』、スズキナオ氏との共著に『酒の穴』『椅子さえあればどこでも酒場 チェアリング入門』。「晩酌ほろ酔いクッキング」(漫画ゴラク)「今日は早退します!」(東京ウォーカー)他、連載も多数。TV東京「音流~ONRYU~ 酒場サーキット」出演中。

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