【ドクター和のニッポン臨終図巻】美術家・篠田桃紅さん「百歳はこの世の治外法権」 自然のままに生きた107年 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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美術家・篠田桃紅さん「百歳はこの世の治外法権」 自然のままに生きた107年

 新型コロナウイルスで辛いニュースばかりだったこの1年。「人生100年時代」という惹句さえ、どこか空虚な響きに聞こえてしまいます。100歳まで元気に生きるとは、いくら本人が望んでも叶うものではありません。医療の進歩によって、ある程度の延命は(たとえ本人が望んでいなくとも)可能となりましたが、それでも寿命とは運命であり、百寿は尊く奇跡的なものであることに変わりはない。2500人以上を看取ってきた町医者だからこそ、僕はそう思っています。

 そんな尊い存在であったおひとり、墨を使った独自の水墨画で知られた美術家の篠田桃紅さんが、3月1日に都内の病院で天寿を全うされました。享年107。死因は、老衰との発表です。

 あれは2016年。NHKの人気番組『SWITCHインタビュー達人達』で、医師の日野原重明さん(2017年没、享年105)と篠田さんが対談されたのを、とても印象深く覚えています。

 当時、日野原先生が104歳。篠田さんが103歳。おふたりとも、第一次世界大戦前に生まれ、激動の時代を生き抜いてきた御方です。このときの放送は今の若者言葉を使うならばそう、「神回」でした。

 日野原さんが、その昔よど号ハイジャック事件に巻き込まれた経験以降、「これからの人生、私の命は誰かに捧げるため、人にサービスするためにある」「生かされていることに感謝をしている」とお話しされました。

 すると篠田さんは、少し間を置いてから、「私はそういう謙虚さがないわ。感謝という気持ちは少ない」ときっぱりと言いました。「人に何かをして頂いたとか、助けて頂いたことには感謝はしますよ。だけどただ生きているということ、天地万物の目に見えないものに感謝するということは私はあまりないの。(命は)自然物だから、自然のままに生きているの」と。

 そんな篠田さんに戸惑った顔をされた日野原さんは、なんとか会話を合わせようと、「それでも、2人に共通するものはある…」とフォローするのですが、篠田さんは「共通点なんてないわよ! 日野原さんと私は、月とスッポンよ」と笑って反論しました。番組のプロデューサーはさぞ困ったことでしょう。だけど、このどこまでも噛み合わない対談を見て僕は言いようのない感動を覚えたのです。そして、奇跡の百寿者同士であるおふたりの共通点は、「素直に生きてきた」ということに尽きるのでは…と考えました。

 誰のために生きるのも自由であり、生かされていることに感謝するのも、感謝しないのも、また自由。

 今、我々は「~すべき」「~であるべき」という見えない共同主観に囚われ過ぎてはいないでしょうか。

 彼女の著書にあった、「百歳はこの世の治外法権」という言葉。これこそ、長寿の醍醐味かも…。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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