【暗黒大陸を照らす光 膵臓がん治療最前線】電流でがんを死滅させる「ナノナイフ治療」 3年生存率37%“根治”も現実味 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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電流でがんを死滅させる「ナノナイフ治療」 3年生存率37%“根治”も現実味

 切除不能の膵臓がんに対して、より根治性の高い治療法として期待を集めるのが、山王病院(東京都港区)で2016年から始めているナノナイフ治療だ。長さ15センチ、太さ1・1ミリの針を2~6本、皮膚を通して腫瘍を取り囲むように刺し、針と針の間に3000ボルトの高電圧で1万分の1秒のパルス電流を500~1500発流すことによって、がん細胞に小さな穴を開け、死滅させるという治療法である。

 「切除不能の膵がんに対しては転移、あるいはそれを想定した全身への治療と、局所進行を制御できる治療の両方が必要です。前者は化学療法が有効ですが、後者に関して膵臓は血流が少ないため、抗がん剤を大量に送り込めず、効くけれども根治まで追い込めない。その点、ナノナイフは根治を目指せる、患者に希望を与える治療法だと思います」

 山王病院がん局所療法センター長(国際医療福祉大学 臨床医学研究センター教授)の森安史典医師は治療の意義をこのように語る。

 ナノナイフ治療の主な対象はステージ3の遠隔転移を伴わない切除不能局所進行膵がん。膵臓の表面を越えて周囲の血管や組織周辺にがんが食い込んでいる状態であるが、ナノナイフの電流は器官や臓器を支える間質には影響を与えず、臓器の構造や血管、神経などは無傷のままだ。すなわち、血管を傷つけずに刺すことで、血管周辺のがん細胞を死滅させることができる。

 CTなどのシミュレーション画像とリアルタイムで撮影する超音波の画像を融合させる技術によって、針を想定していた角度や深度で正確に刺し込めるようになっており、安全性は高い。

 「既存の化学療法をベースに、侵襲性の低いナノナイフ治療をプラスしてがん細胞を減らし、がん細胞の縮小・消失を図るという治療戦略です。したがって化学療法との併用が必須になります」(森安医師)。

 ナノナイフ治療前後の1カ月間は休薬する必要があるものの、身体への負担が少なく、標準治療である化学療法を継続できることが、手術との違いだ。

 2016年4月~19年3月の3年間でナノナイフ治療を実施した患者125人の全生存期間の中央値は27・8カ月。3年生存率は37%、4年生存率は16・5%だった。化学療法のみの生存期間の中央値は約1年、3年生存率はほぼゼロだ。それと比べると長期延命効果は明らかであり、根治の目安となる5年生存も現実味を帯びている。

 ナノナイフへのポテンシャルは物理的ながん細胞の縮小・消失だけではない。治療によって残ったがん細胞の死骸からがんの抗原を認識して免疫反応が起きやすいことがわかっている。「この免疫反応を利用した全身治療を開発することにより、より多くの治癒例が得られるかもしれません」と森安医師は期待する。

 ただし、ネックとなるのは自費診療であり、200万円以上の自己負担が必要。1日も早く保険診療として承認され、適応患者が幅広く受けられるようになることを願う。 (取材・吉澤隆弘)

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