【ドクター和のニッポン臨終図巻】俳優・田中邦衛さん…“五郎さん”は私たちの記憶の中で生涯現役 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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俳優・田中邦衛さん…“五郎さん”は私たちの記憶の中で生涯現役

 『北の国から』の追悼放映を観ながら今、この原稿を書いています。北の大地に暮らす父と子の成長を長きにわたって描き続けたこのドラマ。多くの視聴者が、純と蛍の親戚のような気持ちで作品を見守っていたはずです。

 愛情深いゆえに口下手で不器用すぎる父親役の五郎さんの存在が、フィクションなのかノンフィクションなのか、視聴者が混乱するほどに全身全霊で演じられた俳優の田中邦衛さんが3月24日に亡くなられました。享年88。死因は、老衰との発表です。

 確かに、ここしばらくお見かけしなかったように思います。2010年に公開された映画『最後の忠臣蔵』が最後の出演作だったそうです。その後、マスコミの前に姿を見せたのは12年に亡くなられた俳優の地井武男さんの葬儀でのこと。「ちぃ兄、会いたいよ~」と少しおぼつかない弔辞を読んだ田中さんを、息子の純を演じた吉岡秀隆さんがそっと支えていたのが印象的でした。

 それからは、公の場に姿を見せることはなく、10年間静かに過ごされた後の米寿での旅立ちです。この間、どのような状態であったのか、いろいろな記事が書かれているようですが、10年の最後の映画出演の時点で、田中さんは喜寿の77歳。普通の企業勤めであれば、現場の最前線に立つことはまずありません。

 後期高齢者となっても、役を演じられるということがどれほどスゴイことか…私は先日、縁あってあるヤクザ映画にチョイ役で出演させてもらいましたが、たった一言の台詞が本番になるとどうしても出て来ずに、何度もNGを出しました。還暦を過ぎるとはこういうことなのだと実感しました。だからこそ、70代、80代の役者さんには本当に頭が下がります。

 さて、この4月1日より「改正高年齢者雇用安定法」が施行されました。70歳まで働き続けることができるよう、就業機会を確保することが企業の努力義務となったのです。確かに今の70代は若々しい人が多く、高齢者とは呼べない人ばかり。しかし、老い方は人それぞれ。生き甲斐として働きたい人が働ける環境づくりは大いに結構ですが、「働かざる高齢者は食うべからず」といった空気が、この法改正によって社会に蔓延(まんえん)しないだろうかと少々不安です。

 厚生労働省の発表によれば、日本人の平均寿命は、男性が81歳で、女性が87歳(19年)。しかし、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる「健康寿命」は、男性72歳、女性74歳。生涯現役で死ぬ人は、意外に少ないことがわかります。

 田中さんも70代でリタイアしました。しかし、五郎さんは私たちの記憶の中で生涯現役です。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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