【ドクター和のニッポン臨終図巻】脚本家・橋田壽賀子さん、意思のある逝き方のお手本 - zakzak:夕刊フジ公式サイト

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脚本家・橋田壽賀子さん、意思のある逝き方のお手本

 今、僕は『安楽死で死なせてください』という本を手元に置きながらこの原稿を書いています。

 本書の中で著者は、2015年に厚生労働省が改訂した「人生の最終段階における医療決定プロセスに関するガイドライン」について詳しく触れています。

 〈患者本人の意思決定を原則として、医療・ケアチームの判断が得られれば、「医療行為の不開始、変更、中止」も認めるというのです。患者本人の意思が確認できない場合は、家族が推定する。家族が推定できないときは、患者にとって何が最善か話し合って決める、という手順です。家族がいない場合は、医療・ケアチームが最善の医療方針をとる、とされています。これでは、家族がいない私が昏睡状態にでもなったら“最善の”延命措置をされてしまうに違いありません〉

 この本の著者である、脚本家の橋田壽賀子さんが4月4日に静岡県熱海市の自宅で亡くなりました。享年95。死因は急性リンパ腫との発表です。

 リンパ腫とは、血液がんの一種でリンパ球系に異常をきたす病気です。首や腋などにしこりが現れ、発熱や体重の減少、さらに血流障害や麻痺などの症状が出ます。橋田さんは今年2月に都内の病院に入院し、3月に熱海の病院に転院。亡くなる前日に自宅に戻られました。手術などの積極的な治療はされなかったようです。

 そして最期は、娘同然の付き合いをされていた女優の泉ピン子さんらに看取られた。意識がなくなったとき、ピン子さんが「ママ」と呼んだら目を見開いた、と。

 ピン子さんのお話を聞いて、「安楽死を選択しなくとも、穏やかに逝かれた。本当に良かった」と僕は思わず呟いてしまいました。

 数年前に、日本に安楽死論争を巻き起こした橋田さん。しかし彼女が本当に怖かったもの。それは延命治療ではなくて、実は「孤独」だったのではないかと、著書を読んでいると感じます。家族がいない私が昏睡状態になったら、誰かに迷惑がかかるのでは…という思いが大変強かったように思うのです。しかし、日頃から最期の希望をはっきりと言葉にしていたこととと、理解ある素晴らしい友人に恵まれたことで、穏やかな最期を自宅で迎えることができた。

 ここ最近、「おひとりさまの私は、望み通りに死ねますか?」という質問をよくされます。僕は「実は家族がいないほうが平穏死できるんですよ」と答えると皆さん驚かれますが、本当です。

 大好きな自宅で大好きな人に看取られた橋田さんは、本人の希望により夫とは別のお墓に納骨されたとか。彼女の逝き方が今後、独居の方のお手本となるかも。家族がいない=孤独ではないのです。

 ■長尾和宏(ながお・かずひろ) 医学博士。東京医大卒業後、大阪大第二内科入局。1995年、兵庫県尼崎市で長尾クリニックを開業。外来診療から在宅医療まで「人を診る」総合診療を目指す。この連載が『平成臨終図巻』として単行本化され、好評発売中。関西国際大学客員教授。

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