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「非核化」はバーター“国家の自壊”恐れる正恩氏 土台から腐り始めた北朝鮮の経済

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 来週12日に迫った米朝首脳会談を、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が何としても実現したい背景には、国際社会による経済制裁が効果を発揮し、背に腹を代えられない状況に追い込まれたという事情がある。

 そうでなければ、ドナルド・トランプ米大統領に会談中止を通告された5月24日の翌朝には、金桂寛(キム・ゲグァン)第1外務次官に「会談は必要だ」と訴える談話を出させ、側近の金英哲(キム・ヨンチョル)党副委員長に親書を持たせてニューヨークに派遣させるはずがない。

 北朝鮮経済の実情を、朝日新聞5月30日付「動く北朝鮮」が伝えている。国の食糧配給システムは崩壊し、国営企業も仕入れが難しくなった。人々も企業も市場で物を自力で売り買いせざるを得ない。全国440カ所以上の市場で遣われる通貨はドルや中国の人民元だ。ウォンには信用がない。

 当局は、企業や協同農場ごとに独立採算制を認め、一定金額を国に納めれば、残りは自由に使える「インセンティブ制」も採り入れた。北朝鮮の経済はここ数年成長しているが、人々や企業による「生存競争」の結果だ。思想統制は依然厳しいが、市場では「大事なのは思想ではない。食べていくことだ」と人々が口にするという-。

 ソ連崩壊前の国内事情をほうふつさせる内容だ。米国との軍拡競争で経済的に行き詰まり、末期には国営や公営の農場での生産額よりも、農民の庭先の自己菜園(自留地)での生産の総額の方が上回ったことが伝えられていた。朝日記事は、5月に北朝鮮を訪れた専門家の「この国は、土台から腐り始めている」との感想を紹介している。

 正恩氏は「国家の自壊」を避けたいはずだ。経済制裁の緩和や外国からの経済支援を得て国内経済を立て直したい。そのために国際社会、特に米国に差し出した条件が「非核化」。「バーターとしての非核化」というわけだ。

 同じ記事に、4月ごろ、党の地方組織や国営企業といった、末端機関に属する党幹部に向けて上映された映像について紹介されている。

 海辺で男性が水平線を遠く望んで立っている。その頬を涙がつたう。そこに、「強盛国家を実現するために努力してきたのに、改革がうまくいかないもどかしさから、涙を流しておられる」とのナレーションが流れる。正恩氏の姿だ。

 党幹部への引き締めを図るものだというが、経済立て直しのために「非核化」を行うとの国内向けメッセージではないか。

 もちろん、ここで言う「非核化」は本気ではない。あくまで経済的な見返りを得るためのバーターと考えるべきだろう。

 ■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士課程中退。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。教育再生実行会議委員、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長など。法制審議会民法(相続関係)部会委員など歴任。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)、『公教育再生』(PHP研究所)など多数。

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