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東京ドーム数個分の広さも、ショッピング街はガラガラ… それでもカジノが黒字のワケ

★松井政就 アトランティックシティーの今(5)

 スロットで負けた腹いせにトイレに八つ当たりする男を残し、ぼくはリージョナルメディカルセンター(地域の医療機関)に向かった。ギャンブル依存症に関する話を聞こうと思ったのだ。

 受付で医者の詰め所を案内され、待つこと数分。現れたのはまるでハリウッド女優かと思うほどの美人女医。思わぬ展開に何を聞きに来たのか忘れそうになったが、どうにか質問すると、ギャンブル依存症はこの病院単独で対処できる問題ではなくなり、専門の医療機関に患者を送っているとのこと。

 「紹介してほしい」というと「いいわよ」とぼくの手帳に医療機関の住所と連絡先を書いてくれた。その住所を見ながら「歩くとどれくらいかかりますか?」。

 すると彼女は不思議そうな目でぼくを見て「けっこう時間かかるわよ。30マイルあるから」。30マイルといえば1600メートルの30倍だから、えっ、48キロ? 瞬時に計算できたのは競馬をやっているおかげだが、喜んでいる場合ではない。

 その施設訪問はまた次回として病院から出る際、受付の男性がぼくの背中に「グッドラック!」と声を掛けた。普通なら「お大事に」というところだが「勝てるといいね!」に聞こえたのはやはりカジノの町のせいだろう。

 その足でぼくはアウトレットに向かった。ラスベガスもそうであるように、カジノの近くにアウトレットを置くのは近年の流行で、中にはギャンブルをしないで買い物だけする人もいる。

 ここのアウトレットもブランド品が定価の半値など格安と聞いていた。何か買おうと思い、適当に入るとどの店でも店員が飛んできてびっくりするくらい丁寧に面倒を見てくれる。

 まさに日本顔負けの、ものすごいおもてなしだと思ったが、理由は明白だった。客がとにかく少ないのだ。東京ドームの何倍もありそうなショッピング街で、この日すれ違ったのは10人くらい。そんな様子を見てぼくはこの町がかわいそうになった。

 こんな状態でもアトランティックシティーのカジノは黒字である。なぜかというと、とてつもない大金持ちがやってきて大金を賭けている(=負けている)からだ。

 金持ちさえ呼び込めば楽して利益が上がるため、カジノはぼくたち一般人のことをあまり考えなくなってしまった。大富豪だけを相手にすれば効率よく儲かるのは事実だが、それがカジノとして正しいやり方とはいえない。

 なぜならカジノとは単に帳簿が黒字ならいいというものではなく、どんなお客さんも自分なりの費用で遊べ、勝ち負けだけではない色んな楽しみを味わうことができることこそ魅力だからだ。

 この町がこの先どうなるか見るため、いずれまた戻ってこようとぼくは思った。(作家・松井政就)

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