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力強く握り“先制”…意外に大きい「握手の効用」

★交渉術の極意(9)

 相撲の立ち合いと交渉事の入り口は、その成否においてよく似ている。相撲で立ち遅れれば、土俵際にズルズルというケースが多い。双葉山の相手の立ち合いを見て立つという「後の先(ごのせん)」などは、よほどの達人以外は通用しない。交渉事も相手に機先を制されると、話の主導権を挽回することは、なかなか難しくなる。

 そこで、田中角栄がしばしば外交交渉などの真剣勝負の場で見せつけたのが、迫力に満ちた握手による“先制”ということであった。

 その「握手の効用」を、田中の秘書だった早坂茂三(のちの政治評論家)から、こう聞いたことがある。

 「オヤジさん(田中)の手は野球のグラブみたいで、ちょっとゴツイが、掌(たなごころ)は柔らかい。外交交渉の勝負の場では、もとより負けは許されない。勝機をつかむタイミングも、一瞬しかない。オヤジさんは、まず交渉相手の目を凝視、そのうえでガシッと音がするくらいの力強さで握手に出る。それこそ、列車が連結するときのような力強さだ。相手は、手がシビれるらしい」

 「相手はこの握手で、強烈な先制を受ける一方で、この男は全力投球、体当たりでこの会議に臨んでいることを知ることになる。当然、相手も真剣勝負とならざるを得ないということだ。オヤジさんの大小の交渉事には、随分立ち会ったが、勝因の一端に、私はあの力強く握る先制の握手を見ていた」

 首相に就任して、日中国交正常化交渉の賭けに出た際も、田中はこの手で毛沢東主席、周恩来首相と向かい合った。当時の訪中同行記者が言っていた。

 「特に、周恩来との出会いでは、田中は火花が出るんじゃないかと思われるくらいの迫力で握手に出た。田中のこの交渉に向けての命懸け、真剣さが周りに伝わった瞬間でもあった。困難は多々あったが、これが国交正常化への日中共同声明発表(1972年9月)にたどり着けた要因の1つになったとみた。田中と周の信頼感は、あの田中の握手によって高まったということです」

 力強い握手の先制は、まず相手への親愛の情として伝わる。交渉成立への扉を開く効用は、意外に大きいと知るべきである。

 交渉事での先制の握手は「あくまで力強く」が要諦、優しく握るのはカノジョだけにしておきたい。(政治評論家・小林吉弥)

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