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米中貿易戦争激化も…安倍政権の「立ち位置」が絶妙なワケ 米と認識共有の一方で中国と関係改善

 米国と中国の貿易戦争が激化している。そんななか、日本の立ち位置が絶妙だ。安倍晋三政権は、ドナルド・トランプ米政権と対中認識を共有する一方、中国との直接対決は避けて、関係改善の機運を保っている。国際的な存在感が高まったからこそ可能になった離れ業、といえる。

 トランプ政権は物別れに終わった米中交渉を受けて、中国からの輸入品すべてに最大25%の制裁関税を課す方針を決めた。これに対し、中国もすぐさま600億ドル(約6兆6000億円)相当の制裁関税を25%に引き上げて、報復に出た。

 だが、中国の制裁規模は米国に及ばない。

 そもそも、米国の輸入自体が中国を圧倒的に上回っているからだ。すべての制裁が実行されれば、中国は大打撃を被る。すでに悪化している中国の景気が一段と落ち込むのは確実だ。

 米国も返り血を浴びるだろうが、中国からの輸入品のうち、汎用(はんよう)消費財などは他国に切り替えるのが可能である。従って、時がたてばたつほど、米国が有利になる。

 安倍政権の対中認識は2018年9月の日米首脳会談における共同声明に端的に示されている。それは次のように記していた。

 「(第3国による)知的財産の収奪、技術の強制移転、貿易を歪める産業補助金、国有企業が生む歪みなどの不公平な貿易慣行、および過剰生産に対処するため、日米と日米欧が緊密に協力、連携する」(一部略)

 名指しは避けているが、第3国が中国を指すのは明白だ。大体、トランプ氏に「中国の脅威」を最初にブリーフした同盟国の首脳は安倍首相である。16年11月、大統領就任前のトランプ氏をニューヨークのトランプタワーに訪ねて、懇切丁寧に説明したのだ。

 そんな経緯も踏まえれば、トランプ政権の対中強硬路線を安倍首相が強力に支持しているのは明白だ。むしろ、大統領は直前の4月末に開かれた安倍首相との首脳会談を踏まえて強硬路線を決断した可能性すらある。

 一方で、安倍首相は対中関係を改善している。

 昨年10月の訪中では「競争から協調へ」「互いに脅威とならない」「自由で公正な貿易体制の発展」という原則で一致した。6月の習近平国家主席の訪日に続いて、安倍首相の年内訪中計画も浮上している。

 米国には対中強硬路線をささやきつつ、当の中国とは関係を改善する。そんな「アクロバット外交」が可能になったのは、何と言っても長期政権であるからだ。習氏は「トランプと仲が良く、外交経験も豊富な安倍首相には、何か現状を打開するいい知恵があるかもしれない。ケンカは損だ」と思っているのではないか。

 トランプ氏は、6月に大阪で開かれるG20(先進20カ国・地域)首脳会議に合わせて、習氏と会談する意向を示している。ホスト役の安倍首相は、ここでも米中双方から頼りにされるに違いない。

 世界経済に暗雲を広げる米中対決は、日本の消費税引き上げ問題に直結している。日本の景気悪化も鮮明になった。いよいよ、増税延期とその後の衆参ダブル選に向けて、安倍首相の「決断の時」が近づいてきたのではないか。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『明日の日本を予測する技術』(講談社+α新書)がある。

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