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習近平氏の訪朝目的…対立ではない「脱米」 中国は米国の「一部の政治勢力」に狙い?

 メディアの悪しき習慣だが、今回も全開となった場面がある。

 習近平国家主席の訪朝の一報を受け、世界中のメディアが早速「対米カード」と位置付けたことだ。

 国際政治を扱う上で便利でかつ魔法のワードだが、現実をゆがめている。中国を、馬鹿の一つ覚えのように「北朝鮮の後ろ盾」と表現するのと同じで中身などない。少なくとも私は、1990年代以降の中朝関係で、「中国が北朝鮮の後ろ盾だった」なんて状況を、見たことも聞いたこともない。

 よって訪朝の目的は対米カードなどではない。そもそも対米カードというのなら、「中国の影響力の下で北朝鮮が妥協する」ことが条件だが、そんな簡単に妥協できるのなら北朝鮮が中国を間にかませるメリットは何なのか。直接トランプ大統領と交渉した方が、百倍有益だろう。

 第一、中朝が蜜月だからって、アメリカからどんな妥協が引き出せるというのか。逆に教えてほしいくらいだ。

 冒頭から愚痴っぽくなってしまったが、今般の訪朝は何を目的としていたのか。

 キーワードは「脱米」であろう。

 と書くと気の早い読者はすぐに「中朝が結託してアメリカと対抗」と解釈するかもしれないが、そうではない。あくまで対立を意味する「脱米」ではなく、「ちょっと距離を置こう」といったニュアンスだ。

 実は、この連載でも書いたように、中国は昨年末から、すでに北朝鮮への制裁を部分的に解除してきている。これにロシアも乗ってきているし、韓国も乗り始めている。

 この流れをもう一段ぐっと前に進めようという狙いだ。

 事実、会談で習近平氏は「朝鮮半島の非核化を推進した北朝鮮の努力を評価する」とした上で、「独自の発展にできる限り協力する」ことを約束している。

 驚いたのは、訪朝団の中にマクロ経済の司令塔である何立峰発展改革委員会主任が入っていたことだ。これは大きな経済協力の合意が、その場でできるともとれる布陣なのである。

 中国はこれまで朝鮮半島問題ではアメリカと足並みをそろえてきた。アメリカに協力して北朝鮮に厳しいプレッシャーを与えながら、その一方で、アメリカから韓国に「THAAD(高高度防衛ミサイル)」を配備するという嫌がらせを受けても、その姿勢が揺らいだことはなかった。そんな中国がここにきてなぜ急に「脱米」に舵を切ったのか。

 当然、そのきっかけは米中貿易摩擦の激化だ。だが、中国が対抗しようとしているのはトランプ大統領ではなく、アメリカという国でもない。中国の好きな表現を借りれば「一部の政治勢力」ということになり、それはポンペオ国務長官、ボルトン大統領補佐官などに代表される面々だ。

 ハノイの米朝首脳会談直後に北朝鮮が、ポンペオ国務長官を会談から外せと名指ししたことでもわかるように、高圧的な態度で高いハードルをふっかける勢力が中朝の共通の敵になっている。

 中国が最近、ロシア、イランと距離を縮めたのも同じ文脈でとらえることができるのだ。

 ■富坂聰(とみさか・さとし) 拓殖大学海外事情研究所教授。1964年生まれ。北京大学中文系に留学したのち、週刊誌記者などを経てジャーナリストとして活動。中国の政・官・財界に豊富な人脈を持つ。『中国人民解放軍の内幕』(文春新書)など著書多数。近著に『中国は腹の底で日本をどう思っているのか』(PHP新書)。

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