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米朝協議再開は“思惑一致”の賜物 「核と拉致」で日朝は正念場…「安倍首相は蚊帳の外」はピンぼけ批判

 ドナルド・トランプ米大統領が6月30日、南北軍事境界線がある板門店(パンムンジョム)を訪れ、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と会談した。米朝協議の再開は、日本人拉致問題の解決にも一歩前進だ。

 今回の会談は、「正恩氏との対面を呼びかけたトランプ氏のツイッターから始まった」と言われている。

 ただ、米紙ワシントン・ポストは同月23日、トランプ氏が「正恩氏との対面を模索している」という専門家の見方を報じていた。2人は何度も親書を交換する関係を築いている。とすれば、板門店訪問を機に、トランプ氏が正恩氏との会談を狙ってもおかしくはない。

 2020年の大統領選を控えたトランプ氏はもちろん、求心力低下がささやかれている正恩氏にとっても、会談は指導力をアピールする材料になる。つまり、電撃会談は両者の思惑が一致した結果だった。

 ただ、これで交渉が一気に進むかといえば、あまり期待できない。両者は、新しい交渉チームによる協議開始で合意し、米側は国務省のスティーブン・ビーガン米国北朝鮮担当特別代表が率いる。一方、北朝鮮側は外務省が担当する見通しだ。そうだとすれば、外務省に交渉を差配する実質的権限があるとは思えないからだ。

 そもそも、「経済制裁の段階的緩和」を望む北朝鮮と、「完全な非核化」を優先する米国の隔たりが大きい。米側の「われわれは急いでいない」という姿勢も期待の低さを物語る。

 とはいえ、日本にとっては協議再開が拉致問題解決にプラスなのは間違いない。交渉が始まらない限り、正恩氏に問題解決のインセンティブが働かないからだ。

 仮に、正恩氏が非核化に動くなら、見返りに制裁緩和と経済協力を手にしなければ割に合わない。だが、トランプ氏は「カネを出さない」方針を明確にしている。結局、日本に期待せざるを得ない。

 正恩氏は非核化とともに拉致問題の解決を決断すれば、経済協力の果実を得られるが、決断しなければ何も手に入らない、という構図である。したがって、日本としては何はともあれ、まず非核化交渉を進めることが拉致問題解決の前提になる。

 トランプ氏は過去2回の米朝首脳会談で、正恩氏にこうした交渉の全体像と日本の方針を伝えている。産経新聞は、中国の習近平国家主席も6月の中朝首脳会談で「安倍晋三首相の考えを(正恩氏に)伝えた」と報じた。

 少なくとも、正恩氏が「非核化と経済協力、拉致問題解決が不可分の関係にある」点を理解しているのは確実だ。「正恩氏はけっして核を手放さない」という見方もあるが、そうであるなら制裁が続くだけだ。ボールはあきらかに「正恩氏の側」にある。

 日本では、相変わらず「安倍首相は蚊帳の外」といった論調もある。それは、交渉の実像をまったく理解していないピンぼけ批判だ。

 正恩氏は3回目の米朝首脳会談を「2019年末までに」と希望していた。正恩氏に残された時間が少ないことを、自ら認めたも同然だった。今回は思いがけなく、トランプ氏の側から救いの手が差し伸べられた。正恩氏にも日本にとっても、ここからが本当の正念場である。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『明日の日本を予測する技術』(講談社+α新書)がある。

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