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終戦翌年、耐え忍ぶ国民への思い込め

 掲出歌は、昭和天皇が第二次世界大戦の終戦翌年にお詠みになられた御製(和歌)です。「松上雪」と題されています。「ふりつもる深雪(みゆき)に耐えて色を変えない松はなんと雄々しいことだろうか。人もこのようにありたいものだ」という歌意です。

 戦時中の苦難や敗戦の悲痛に耐え忍ぶ国民への思いも込めて、「松」をお詠みになられたのかもしれません。

 古来、「松」は時代も超えて多くの人々に詠み継がれてきました。『万葉集』では萩や梅に次いで多く詠まれている植物です。寿(ことほ)ぐ言葉として知られる「松竹梅」の最初にくるのが松です。松は他の樹木が生えないような岩や砂だらけの荒れ地でもよく育つ力強さがあります。

 可燃性の樹脂を多く含み、マッチでも着火できるため、焚き付けにも用いられました。戦時中の日本では掘り出した根から松脂(まつやに)を採取し、航空機の燃料としようとしたこともありました。陶磁器を焼き上げる登り窯や金属加工の鍛冶用の炭としても用いられた松。「たいまつ」を漢字で書くと「松明」です。松脂を油で溶いてあかぎれ薬にする地域があるなど、薬用にも用いられてきました。樹皮を発酵させて堆肥化したものは土壌の改良にも役立つそうです。

 魔除けや神様が降りてこられる樹としても知られ、正月の門松には神様を出迎える意味もあります。思えば、天女が降りてきた「羽衣」も松の伝説です。虹の松原、天橋立、松島など、松の名所は日本各地にあります。

 こんなに尊ばれ、親しまれ、しかも燃料にもなる力強さを讃えた松。古(いにしえ)より、王や皇帝ゆかりの宮殿に松が植えられていることも多く、活力の象徴でもありました。

 その松をお詠みになり、終戦から数カ月後の歌会始であえて発表した昭和天皇。緑豊かな松の生命力やたくましさを讃えつつ、新たな時代の平穏無事を御祈念くださったのだと存じます。

 令和がはじまった今日(こんにち)でもあの頃と同じように、松が深雪に耐え、大地に深く根を張っています。寒さ厳しい季節に思いおこしたい昭和天皇の御製です。(作家、歌人・田中章義)

 ふりつもる

 み雪にたへて

 色かへぬ

 松ぞををしき

 人もかくあれ

 (昭和天皇)

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