zakzak

記事詳細

エンゼルス・ソーシア監督退任 去りゆく“昔かたぎ”の指揮官

 マイク・ソーシア(59)がエンゼルスの監督を退いたことで、米大リーグから昔かたぎの監督がついにいなくなった。昔かたぎは、米国ではオールド・スクール(old school)と表現されるが、大リーグにおけるオールド・スクールな監督とは、選手の起用や作戦は勿論のこと、昇降格や補強などのチーム編成についても権利と責任を持っている監督のことである。

 世の中が複雑化、高度化するに伴い、分業が進み、文明を進化させてきたことは、皆さんご存じのことだろう。野球の世界でも同じことで、かつてエースは中3日で先発完投、大事な試合にはリリーフでチームのピンチを救うことを求められたが、いまや先発は中4日で100球がメドで、クローザーは勝ちゲームの1イニング限定、8回担当のセットアッパーに、近年は7回担当まで、分業化は進むばかりである。

 そんな高度分業化された世界に、二刀流で100年前の光景を蘇らせた大谷翔平は奇跡以外のなにものでもないが、その大谷を指揮したソーシア監督も、現場はユニホーム組の仕事で背広組に口出しをさせないという、一昔前の監督像を貫いた奇跡的な存在であった。

 かつて、ヤンキースの名物監督だったビリー・マーチンが3度目の監督就任会見(1983年)で、「編成権を任せてくれたから引き受けた」と切り出し、同席したスタインブレナー・オーナーが「そんな約束をした覚えはない」と返し、そこから口角泡を飛ばす口論に発展したシーンは、米国の野球ファンの間では有名だが、今は昔。

 近年は統計と映像の解析技術が進み、チーム編成はもちろんのこと、試合における意思決定も、その分析結果から導き出される傾向と対策によるようになり、その道の専門家をズラリそろえたフロントが仕切っている。ただし、彼らは博士号は持っていても、高度な野球の経験はない。監督の役割はまさにそこで、つまりフロントと選手の橋渡し、そしてチームで起こっていることをすべて把握したうえで、チームを代表してメディアに対応することである。

 こうした役割変更および権限の縮小に伴い、大リーグの監督の給料は急減していて、今季新たに就任した監督の年俸は、最上位のヤンキースのブーン監督でも115万ドル(約1億3000万円)で、その他は全員100万ドルに満たない。ソーシアの総額5000万ドル(約56億5000万円=2018年までの10年契約)や、マドン監督(カブス)の総額2500万ドル+出来高(18年までの5年契約)は、そんな昔の話ではない。

 さて、翻ってわが日本。大リーグで起きたことは、いずれ日本プロ野球でも起こるという定説があり、実際、ほとんどはそうなっているが、一応選手とフロントを経験した勘でいえば、プロ野球経験者でない集団の指示を監督が唯々諾々と受け入れ、選手に浸透させるために奮闘する姿は、日本ではなじまない気がする。たとえば、選手や有力OBが、なんか変だ、と声をあげたら、ファンも「そうだそうだ」となるだろう。そうこうしている間に、大リーグでも揺り戻しがあるような気がする。なぜなら大リーグの現場も、声に出すとクビになるから言わないが、フロントが強過ぎる現状に大いに不満を持っているからだ。

 ■小林至(こばやし・いたる) 1968年1月30日生まれ。東大から1991年ドラフト8位で千葉ロッテに指名され入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となったが、1軍登板なく93年退団。その後、米コロンビア大で経営学修士号取得。02年から江戸川大学助教授。05年から14年までソフトバンク球団取締役を兼任。現在、江戸川大学教授、専門はスポーツ経営学。

関連ニュース

アクセスランキング