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「バッテリー間の距離を伸ばす」 米独立リーグで画期的試みのワケ

 博士になった。

 このほど、スポーツ科学博士の学位を取得したのだ。子供の頃、“ハカセ”で思い浮かぶのはオバQのそれで、「学究肌」「物知り」である一方、運動をあまり好まないヒトのニックネームとして定番だったように思う。実際、わたしが通った小中高では、いずれもそういうタイプの方だった。わたしはどちらかというとわんぱくタイプで、学究の世界は想像もしていなかったが、いまはどっぷり。人生は分からないものである。

 博士論文は「日本における独立リーグの勃興の背景と継続の条件」というタイトルで、2005年に発足した独立リーグを切り口に、野球の労働市場について考察した。

 独立リーグが、社会人野球の縮小を補い、野球界の人材市場を下支えする機能を果たして、存在意義が年を追うごとに深まっている一方で、興行を行う営利団体としては観客動員に苦しみ、地域のエコシステムの一環を担うには至っておらず、他の多くの地域密着型プロスポーツ同様、スポンサー頼みの脆弱な財政基盤でいることの危うさを指摘した。

 人材供給の対価として、NPB(日本野球機構)を中心に野球業界全体で支える態勢(補助金を入れるなど)を敷くか、さもなくば、市場価値を試すためにも、以前から秋波を送っているMLB(米大リーグ機構)の傘下入りもありうるだろうと結んだ。

 ということで、書籍化してくださる出版社が現れることを切に願っている次第。ここでは執筆の過程で調査に協力してもらったアメリカの独立リーグのひとつ、アトランティックリーグがMLBとの提携の元、面白い取組を始めるという報に接したので、紹介しておきたい。

 東部沿岸部を中心に展開する同リーグは、現存する7つの米独立リーグの中で、野球のレベルはナンバーワンといわれており、多くの元MLB選手が復帰を夢見てプレーしている。仁志敏久さん(元巨人、横浜)や渡辺俊介さん(元ロッテ)など、日本人が多くプレーしてきた歴史もある。このリーグが今年取り組むのが、投本間の距離(野球規則では18・44メートル)を伸ばすという実験である。

 野球は、好投手が実力を発揮すれば、得点はそうそう入るものではない。9つのポジションの中で、投手にかかる比重が突出して高い競技である。一方、野球における打撃は、あらゆるスポーツの中で最も困難で予見が難しいといわれる神業だ。3割打てば一流という世界で、日米のプロにおける4割打者は1941年のテッド・ウィリアムズが最後である。

 先ごろ、MLB球団からドラフト1位指名を受けたカイラー・マーレー外野手が、NFLを選ぶことを表明したのも、野球の打者としてアマチュアでの実績から将来を予測するのは、アメフトのクウォーターバックとしてのそれよりもはるかに困難で不確実であることが、大きな要因とみられている。

 要は、投本間を伸ばすことで、観客受けする打撃戦を増やそうという試みである。その背景にはもうひとつ、あまりに難しい競技は子供が敬遠するから、その敷居を下げようということでもある。野球人口の減少は、日米ともに悩みの種だ。日本においても、独立リーグとの更なる連携に留まらず、関係するすべてのひとが知恵を絞り、競技普及の最善策を実施する必要があるだろう。

 ■小林至(こばやし・いたる) 1968年1月30日生まれ。東大から1991年ドラフト8位で千葉ロッテに指名され入団。史上3人目の東大卒プロ野球選手となったが、1軍登板なく93年退団。その後、米コロンビア大で経営学修士号取得。02年から江戸川大学助教授。05年から14年までソフトバンク球団取締役を兼任。現在、江戸川大学教授、専門はスポーツ経営学。

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