【大前研一のニュース時評】米中FTAできる可能性の匂いプンプン 両国が入っていないTPPに効力あるのか

新協定締結で折り合ったTPP参加11カ国だが、先行きは不透明だ(AP)

 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加11カ国は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議が行われたベトナムで協議を続け、11日、新協定を締結することで大筋合意した。米国の離脱前に盛り込まれていた約500のルールのうちの20項目を凍結する一方、関税撤廃の約束はそのまま残すことで折り合った。

 ただ、土壇場でカナダが異論を唱えて合意をためらったことで、11カ国の首脳会合が延期されるなど、新協定発効までの不安も残った。今後、それぞれの国で承認プロセスを経て発効されるわけだが、まだまだ紆余曲折もありそうだ。

 カナダは最終的に大筋で合意したものの、大詰めの段階でトルドー首相が「ちょっと待って」と合意宣言に難色を示した。これは拙速に合意を受け入れた場合、TPPから離脱した米トランプ政権との北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉に大きな影響を与えて、自国が不利になると考えたからだろう。

 このカナダの動きに、まとめ役としてベトナムのアイン商工相とともに共同議長を務めた日本の茂木敏充経済再生担当相も、アタフタさせられて気の毒だった。いずれにしろ、世界の二大交易国の米国と中国が入っていない自由貿易の協定が、どれほど効力があるだろうか。

 最近の貿易協定について私が感じているのは、米中が貿易でもめなくなったということだ。トランプ大統領と習近平国家主席の首脳会談に合わせ、中国政府は9日、米国から航空機や電子チップ、大豆などを購入するほか、米中双方の企業がシェールガスや天然ガスを共同開発するなど、合わせて28兆円に上る商談が成立したと発表した。

 署名式に出席した習氏は、今後5年間で中国への輸入額が約900兆円になるという見通しを示した。一方、トランプ氏も訪問先の中国・北京で、米中の企業経営者らを前に「米国は中国に対して多額の貿易赤字を抱えているが、この貿易不均衡について中国に責任はない。貿易不均衡の拡大を防げなかった過去の米国政権を責めるべきだ」と例によってオバマ、ブッシュ父子などを責めるスピーチでお茶を濁した。

 このように、中国の大盤振る舞いに、選挙戦で諸悪の根源は中国だ、とまで言ったトランプも声もなしという状況になっている。ということで、TPP参加11カ国が騒ぎすぎると、中国側から「米国はNAFTAも抜けて、中国との二国間自由貿易協定(FTA)締結をしたほうがいい」と働きかけることも考えられる。

 もともとトランプ氏は、TPPやNAFTAよりも二国間協定を重視している。著作権の保護期間など知的財産関連でもめるかもしれないが、二国間協定で一番効き目があるのは米国と中国だ。米中のFTAができる可能性はプンプン匂う。その先には、中国が提唱するAIIB(アジアインフラ投資銀行)への米国加盟の可能性もある。

 そうなると、日本もあからさまに肩すかしを食らうわけで、TPPの新協定の締結は何か気が抜けたというか、気合が入らなかったように思えた。

 ■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。