【北朝鮮危機】日本にとって北朝鮮危機への対処は前哨戦 最大脅威は中国の強圧的台頭

中国の習近平国家主席は党大会で「強国」という言葉を20回以上も使ったという=10月18日、北京・人民大会堂(AP)

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 北朝鮮の「核・ミサイル」の脅威は、日本にとって大きな脅威であり、これに適切に対処することは喫緊の課題である。そして、その対処の過程において、戦後70年以上にわたり、わが国の健全な安全保障議論を妨げてきた憲法9条を改正し、日本の防衛を米国任せにしないで、「自らの安全を自らが守る」という当たり前の「自助の精神」を取り戻してもらいたいと切に思う。

 日米同盟は、わが国の防衛にとって不可欠な存在であるが、自助努力をしない日本を米国が助けるはずがない。自助努力をする際に妨げになっている「安全保障上のガラパゴス的制約事項」(=専守防衛、GDP1%前後に制約された防衛費、敵基地攻撃能力や武器輸出に関する制約など)を完全に解消すべきである。そうすることによって、北朝鮮の脅威に実効的に対処できるのだ。北朝鮮危機は、ガラパゴス的な思考や悪癖から日本人が抜け出す大きなチャンスでもある。

 日本にとって北朝鮮危機への対処は前哨戦だ。北朝鮮の脅威は大きな脅威ではあるが、日本が今後直面する最大の脅威は、世界最強の国家を目指す中国の脅威だ。中国の脅威にこそ、われわれは全力を挙げて備え、対処しなければいけない。

 中国の習近平国家主席は、第19回党大会における演説の中で、20回以上も「強国」という言葉を使い、建国100周年に当たる2049年ごろを目途に「総合国力と国際的影響力において世界の先頭に立つ『社会主義現代化強国』を実現する」と宣言した。

 そして、「2035年までに、国防と人民解放軍の近代化を基本的に実現し、今世紀半ばまでに人民解放軍を世界トップクラスに育成する」と強調した。また、軍の役割を「軍事力を誇示し、危機をコントロールし、戦争を抑止するか戦争に勝つ」と規定したのだ。

 世界最強を目指し、軍の現代化と、現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」などのダイナミックな戦略を展開する中国に対して、ドナルド・トランプ大統領の米国は、明確な戦略もなく、ただ「アメリカ・ファースト」という自己中心主義を訴えるのみだ。

 唯一のスーパーパワーとしての「ノブレス・オブリージュ」(高貴なる者の義務)を忘れ、気候変動のパリ合意や、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)から離脱し、最も大切にすべき米国の同盟国からの信頼を失墜している。米国の戦略上のミスが中国の強圧的な台頭を許している側面がある。

 かかる状況において、わが国は、強大化し強圧的な対外政策を推進するであろう中国に対処しなければいけない。米国頼みの甘えの時代は過ぎ去り、自らの知恵と実力で対処しなければいけない時代に入ったことを自覚すべきだ。 =おわり

 ■渡部悦和(わたなべ・よしかず) 元陸上自衛隊東部方面総監、元ハーバード大学アジアセンター・シニアフェロー。1955年、愛媛県生まれ。78年東京大学卒業後、陸上自衛隊に入隊。その後、外務省安全保障課出向、ドイツ連邦軍指揮幕僚大学留学、第28普通科連隊長(函館)、防衛研究所副所長、陸上幕僚監部装備部長、第2師団長、陸上幕僚副長を経て2011年に東部方面総監。13年退職。著書に『米中戦争そのとき日本は』(講談社現代新書)など。