【一服啓上 島田雅彦】若き哲学者、國分功一郎さん「ストレスも煙と共に吐き切ることで楽になる」

高崎経済大学准教授の國分功一郎氏

★ゲスト 高崎経済大学准教授・國分功一郎(上)

 作家で大学教授の島田雅彦さん。好奇心のアンテナは常に広角に張り巡らされている。そんな島田レーダーが強く反応した人物を招いての“一服対談”。今日から3日間は、「暇と退屈の倫理学」をテーマに現代社会を浮き彫りにする若き哲学者、國分功一郎さんに登場いただく。

 島田 國分さんはたばこは?

 國分 本数は少ないけれど吸います。「吸う」と言いましたが、私にとっては「吐く」もの。煙をフーッと吐き切るのが気持ちいいんです。

 島田 喫煙は呼吸を意識しますよね。人ってけっこうため息をつくけれど、そのカムフラージュにもなる。周りを煙に巻くというか(笑)。

 國分 ため息をつきたくなる自分の気分も煙に巻けます(笑)。

 島田 ため息は、誰でも大体1時間に20回ぐらいつくそうなんですが、何のためにつくのかというと、人の身体は肺胞(気管支が枝分かれした先にある空気の入った袋)が潰れてしぼむと深呼吸で元に戻そうとするんですが、ため息を混ぜると戻りやすいんだそうです。

 國分 身体がため息を要求するんですね。私が趣味でやっている空手にも、ハァーッと息を吐き切る呼吸法がありますが、身体や精神を鍛えるには息は吸うより吐く方が大事なんだといわれます。

 島田 体調が悪いと呼吸が浅くなると言うけれど、それも息を吐き切っていないからですよね。

 國分 過呼吸も同じ。

 島田 オペラでは発声練習の際、肺に空気をたくさんためられるよう、吐き切って横隔膜を下げる訓練をします。

 國分 遠慮や我慢をして「言葉を飲み込む」ということがあるけど、不快感が残るのは吐き出していないからです。

 島田 そのように、息を吐くことの大切さを考えると、たばこは吸った煙を吐き切ることを意識的に行うわけだから、実に体にいいものといえます(笑)。

 國分 ストレスも煙と共に吐き出せるし(笑)。私は悩みやつらいことがあったとき、誰かに話すと心が楽になるということに、この年になって初めて気づいたんです。なぜ楽になるのか、哲学的にも非常に関心があったのですが、どうやら息を吐き切ることが大きく関係しているようですね。 (続く)

 ■國分功一郎(こくぶん・こういちろう) 1974年千葉県生まれ。早稲田大学卒業後、東京大学大学院修士・博士課程、パリ第10大学DEA課程等を経て、2011年より高崎経済大学准教授に。学派は大陸哲学、スピノザ主義、ドゥルーズ派、一元論など。「中動態の世界」「暇と退屈の倫理学」ほか著書多数。

 ■島田雅彦(しまだ・まさひこ) 1961年東京都生まれ。東京外語大ロシア語学科卒。83年「優しいサヨクのための嬉遊曲」で小説家デビュー。2003年法政大国際文化学部教授に。「ニッチを探して」「傾国子女」「暗黒寓話集」「カタストロフ・マニア」ほか著書多数。