【一服啓上 島田雅彦】國分功一郎さん、「暇と退屈」は自分と向き合う時間 たばこを吸いながらボーっとは必要

高崎経済大学准教授の國分功一郎氏

★ゲスト 高崎経済大学准教授・國分功一郎(中)

 息も言葉も“吐き切る”ことが大事だと話すお二人。しかし、大学で教職に就く者として、学生にそれをさせるのは難しいということでも思いが一致する。

 島田 日本人は欧米人のように精神科医にかかりつけるということがほとんどないので、その代わりが新橋の夜のにぎわいだと思うんです。

 國分 上司の悪口を言って憂さを晴らす。

 島田 ただ、最近は酒場で罵詈(ばり)雑言を吐く人が随分減りました。

 國分 いよいよ精神科が必要ですね。でも、フロイト流の精神分析によるカウンセリングだと、週5回ぐらい通わなければなりません。

 島田 愛人を囲えられるぐらいのコストと時間がかかる(笑)。

 國分 も、200時間ぐらいセッションをすると必ず効果は出るそうです。人の心の奥底にあるパッションのさらに奥の部分を外に吐き出させるにはそれだけの時間が必要ということです。

 島田 大学で学生と接していて思うのは、人の話を聞くのは実に難しいということ。聞き方の角度が悪いとセクハラになるし、返し方が悪いとアカハラ(アカデミックハラスメント)になることもある。それにビクついていては始まらないので、相手がどう受け取るか直感に頼るしかありません。

 國分 信頼関係をうまく築かないとダメですね。そうして、まずは自分自身と上手に向き合わせることが大事です。私は「暇と退屈」について研究していますが、ハイデッガーという哲学者が著書の中で、パーティーで葉巻を勧められ吸っていると、いつの間にか自分というものがなくなり、付和雷同となって暇と退屈の中に埋もれてしまうと言っています。実はそれとは真逆の、そういう時間こそ焦りがないので正気でいられるとも言っている。ハイデッガーは前者の否定論を選んでいますが、私は後者の肯定論をとりたい。たばこを吸いながらボーっとしている時間は、自分と向き合うために必要なんだと。

 島田 古くはカントも、朝はたばこと紅茶で始まり、毎日決まったコースを散歩するという、“規則正しい暇と退屈な時間”を過ごし、それを思索の支えにしていたようです。

 國分 たばこの時間が増えれば、それだけ自分と向き合う時間も増えるということですよね。 (続く)

 ■國分功一郎(こくぶん・こういちろう) 1974年千葉県生まれ。早稲田大学卒業後、東京大学大学院修士・博士課程、パリ第10大学DEA課程等を経て、2011年より高崎経済大学准教授に。学派は大陸哲学、スピノザ主義、ドゥルーズ派、一元論など。「中動態の世界」「暇と退屈の倫理学」ほか著書多数。

 ■島田雅彦(しまだ・まさひこ) 1961年東京都生まれ。東京外語大ロシア語学科卒。83年「優しいサヨクのための嬉遊曲」で小説家デビュー。2003年法政大国際文化学部教授に。「ニッチを探して」「傾国子女」「暗黒寓話集」「カタストロフ・マニア」ほか著書多数。