【一服啓上 島田雅彦】哲学者の國分功一郎さん「スナックには“ダメ人間になれる”心地よさがある」

國分功一郎さん(左)と島田雅彦氏

★ゲスト 高崎経済大学准教授・國分功一郎(下)

 「暇と退屈」は、自分が最も正気でいられ、自分と向き合える時間だと國分氏は言う。ボーっとしている時間は、それほど貴重なのだとも。

 島田 最近、永井荷風を読み直して思ったのが、荷風は年をとって暇と退屈を持て余したときの生き方を示したパイオニアだということ。独居老人でしたが、家はただ寝るためだけの場所で、普段は午前中から浅草や銀座に出かけて雑踏へ身を置いていた。街を広い家のように使い、暇と退屈を味わい尽くしていたんです。

 國分 街を家のようにというと、ブルガリアのソフィアなどもそうで、向こうの人と街を歩いていると、突然、知り合いの家に寄っていこうと言って、お茶か何かをごちそうになるんです。街の中に、どこでもきちんと居場所があるんですよ。

 島田 今の日本だと、用もなく歩き回れる空間、ふっとため息をつける場所、籠れる場所が必要だと気づいたときには、もう街はすっかり変わっているんですよね。

 國分 私も若い頃はよくわからなかったけれど、今になってその大切さを思うようになりました。

 島田 溝口健二の映画に出てくる昔の祇園のろくでなしの男たちも、上手に暇と退屈を楽しんでいました。

 國分 ろくでなしでいられたんでしょうね、祇園が。今はスナックですか。私は素人なので、温泉旅館にあるスナックぐらいしか知りませんが。

 島田 あれはテーマパークみたいなものですよ。

 國分 そうですよね。でもその程度のスナックでも、私にとっては何となくダメ人間になれる心地よさみたいなものがある。

 島田 たばこを吸える店がどんどん減る中、自由に吸えるのもいい。

 國分 私は、受動喫煙がなぜ嫌なのかというのがそもそもの謎なんですけどね。ジジェクという哲学者が言うには、あれは自分の隣で享楽している人がいるのが許せないんだそうです。つまり、受動喫煙を嫌がる現代社会は嫉妬社会ということですよ。

 島田 子育てに忙しいお母さんが不倫に一番厳しいとかね。

 國分 そう。妬み、つらみ。まあ、不満をどんどん吐き出すのはいいことだと思います(笑)。(不定期連載) 

 ■國分功一郎(こくぶん・こういちろう) 1974年千葉県生まれ。早稲田大学卒業後、東京大学大学院修士・博士課程、パリ第10大学DEA課程等を経て、2011年より高崎経済大学准教授に。学派は大陸哲学、スピノザ主義、ドゥルーズ派、一元論など。「中動態の世界」「暇と退屈の倫理学」ほか著書多数。

 ■島田雅彦(しまだ・まさひこ) 1961年東京都生まれ。東京外語大ロシア語学科卒。83年「優しいサヨクのための嬉遊曲」で小説家デビュー。2003年法政大国際文化学部教授に。「ニッチを探して」「傾国子女」「暗黒寓話集」「カタストロフ・マニア」ほか著書多数。