文政権、八方美人のつもりが八方塞がり 日韓“裏合意”一方的糾弾、韓国経済低迷で頼りは日本だけ

27日、ソウルの日本大使館前に置かれた少女像(左)の周りで開かれた従軍慰安婦問題の抗議集会(共同)

 ■「日本側希望受け入れ」朴政権を批判

 慰安婦問題をめぐる日韓合意を検証した韓国外相直属の作業部会が27日に公表した報告書は「被害者中心のアプローチが交渉過程に十分反映されなかった」と、朴槿恵(パク・クネ)前大統領が大統領府主導で進めた交渉を一方的に糾弾する内容となった。前政権の「積弊を清算する」という文在寅(ムン・ジェイン)政権の方針に沿った国内向け“ガス抜き”の側面が色濃くにじむ。

 報告書が問題視したのは、2015年12月に発表された合意内容以外の「非公開の部分」についてだ。

 日本側が「韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会(挺対協)」などの支援団体への説得を要請したのに対し、「韓国側は説得の努力をするとし、日本側の希望を事実上受け入れた」と指摘した。

 海外で慰安婦関連の碑などを設置する動きを韓国政府が支援しないとの約束を取り付けようとした日本側に対し、韓国側は「支援することなく」との表現を盛り込むことに同意したともしている。日本側が「性奴隷」の表現を使わないよう求め、韓国側は政府が使う公式名称は「日本軍慰安婦被害者問題」だけだとも確認したという。

 日本側の要望を受け入れながら交渉が進められた過程が浮かぶ。だが、報告書は、韓国政府がこれら“裏合意”を隠していたとし、「被害者中心、国民中心ではなく、政府中心で行われた」と批判した。

 文政権が疑問視した「不可逆的」との表現について、日本の首相の謝罪の不可逆性を担保するため、韓国側から先に提案したことも明らかにされた。日本が拠出した10億円についても、元慰安婦の意見を聞かず、「客観的な算定基準に基づいて決められた金額ではなかった」と指摘した。

 報告書は「被害者の意見を十分に集約しないまま、政府の立場を中心に合意を決着させた」との見方を示した。

 朴前大統領と周囲との意思の疎通不足も強調し、朴氏は「慰安婦問題の進展のない首脳会談は不可能だ」として、慰安婦問題と日韓関係全般をリンクさせたことで「むしろ関係を悪化させ、政策の混乱を招いた」とも結論付けた。

 ■五輪成功へ日本必要も…国内世論に慎重配慮

 【ソウル=名村隆寛】慰安婦問題で韓国側が「最終的かつ不可逆的な解決」を確認した日韓合意からまる2年。合意の検証結果を発表した文在寅政権の韓国は、合意への政府の立場表明を“先送り”した。

 康京和(カン・ギョンファ)外相は27日の会見で、国民に深く頭を下げ、国内世論に気を使いつつ「韓日関係に及ぼす影響も考慮し、合意に対する韓国政府の立場を慎重に決めていく」と述べた。この発言は韓国が置かれた現状を明確に示している。

 北の核問題。米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)の韓国配備をめぐる中国との関係悪化。外交的に八方塞がりの文在寅政権としては、これ以上の日本との関係悪化は避けたいところだ。さらに、平昌(ピョンチャン)五輪開幕まで1カ月半を切った韓国は五輪成功に向け、日本に協力を強く求めている。

 加えて、低迷する韓国経済。内外に難題を抱える韓国が今、頼りにでき協力してくれそうなのは日本ぐらいしかない。韓国側の事情によるムシのいい政策に聞こえるが、文在寅政権は歴史問題と経済協力を切り離す「ツー・トラック」の対日政策を掲げている。

 五輪の成功、経済の回復を求める韓国は現時点で日本に離れてもらっては困るのだ。韓国政府は平昌五輪が終わるまでは、日韓合意への立場表明はせず、日本を刺激しない構えだ。

 ただ、日韓合意以降、検証作業など韓国が一方的に行ってきたことは、すべて韓国内部の事情で、元慰安婦や支援団体との「意思疎通の不足」などは韓国側の問題である。

 「前の政権による合意」などと日本に繰り返してきた言い訳は韓国側の勝手な論理で、対外的には通用しない。国同士が協議して決めた以上、合意は守らなければならない。

 隣国日本の大切さや、外交上の約束の重要性など現実について、少なくとも康外相をはじめ韓国の外交の現場は理解しているようだ。ただ、康氏は「あらゆる選択肢」に言及してもいる。韓国世論は「合意の破棄」も含まれると受け止めており、状況次第では朴槿恵政権のような慰安婦問題の蒸し返しもあり得る。

 現時点では日本に配慮し問題を先送りした韓国だが、歴代政権のように“慰安婦カード”は簡単に手放しそうにない。国際社会が評価した日韓合意を受け入れ、信義に基づく履行ができるのか。韓国の姿勢は相変わらず問われ続ける。

 ■元慰安婦77%が現金受領

 日韓合意に従い、日本政府は2016年8月、元慰安婦の女性らを支援する韓国側の「和解・癒やし財団」(同年7月に発足)に10億円を拠出し、国としての責務を果たした。

 日本政府からの10億円の資金から、財団を通し「被害者(元慰安婦)を癒やし、名誉を尊重する」(同財団)という名目で、現金が支給された。合意時に存命だった元慰安婦47人のうち、これまで約77%に当たる36人が金を受け取った。現在生存している32人中、24人が金を受け入れている。

 しかし、4分の3以上の元慰安婦に癒やしのための金が渡されているにもかかわらず、韓国ではその事実はあまり知られておらず、国民の間では認知されていない。(ソウル 名村隆寛、桜井紀雄)