対北軍事行動の選択は…半島情勢を特派員が読む

北朝鮮に対する各国の思惑

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は1日の「新年の辞」で米本土全域が核攻撃圏内にあると威嚇した。経済制裁を強める米国だが、トランプ大統領はついに軍事オプションを選択するのか。情勢悪化を避ける策を見いだせない中国を尻目に、北擁護の姿勢を取り続けるロシア。仲介役、中露の動向が注目される中、韓国は北との対話を模索し続ける-。各特派員らが今後の朝鮮半島情勢を展望する。

 ■米国 誤解と誤算…戦争突入恐れ

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長の1日の「新年の辞」で南北対話の可能性を示唆したことについて、トランプ米大統領は2日、ツイッターで「制裁やその他の圧力の大きな効果が出始めている」「様子をみよう!」とコメントした。トランプ米政権は近い将来、北朝鮮に対し軍事行動に踏み切るのか。その答えを明確に知る者は、政策上の決断で予測不能性を重んじるトランプ氏以外にいない。

 核・弾道ミサイル開発を進める北朝鮮に対するトランプ政権の現時点での大方針は、軍事攻撃を含む「あらゆる選択肢」をちらつかせつつ、国際社会による経済制裁圧力を主導し、核放棄に向けた対話の席に着かせるというものだ。

 しかし、北朝鮮が米本土に到達可能な大陸間弾道ミサイル(ICBM)を近く実用化させ、核戦力体制を確立させるとの見方を前提に、米国の核問題専門家や政策決定サークルなどの間では、正反対の主張が台頭している。

 まず第一は共和党の対北朝鮮強硬派による、北朝鮮に対する全面軍事攻撃で核戦力を無力化させるとともに、金体制を転覆させるべきだとする「主戦論」だ。

 もう一つは、北朝鮮を「核保有国」と公式に認めることはないものの、北朝鮮が核戦力を手に入れた現実を前提に抑止と封じ込めを図り、金体制の自壊または核放棄につなげるというものだ。

 一方、一部の専門家は緊張が高まれば、トランプ氏と金正恩氏の挑発的発言が誤解と誤算を招き、双方が予期せぬまま1、2年内に戦争に突入する恐れがあると警告する。(ワシントン 黒瀬悦成)

■中国 決め手欠くまま悪化を想定 

 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による「新年の辞」と韓国側の反応について、中国外務省の耿爽報道官は2日の記者会見で「両国の指導者が、関係改善や北朝鮮の平昌冬季五輪への参加など前向きなシグナルを発したのはよいことだ」と歓迎し、半島情勢の緊張緩和に期待感を示した。一方で、金氏が核戦力を放棄しない姿勢を強調したことについては「中国は一貫して半島の非核化という目標を堅持している」などと述べるにとどめた。

 中国は北朝鮮の核・ミサイル問題について「核心は米朝両国の対立」(耿氏)との立場だ。米韓が大規模な軍事演習を中断すると同時に、北朝鮮にも核開発を一時的に停止させる「双暫停」を提唱している。この取引は「そもそも北朝鮮側から提案してきた」(中国外務省関係者)との声もあり、核開発で一定の成果を得たと判断した北朝鮮が、中国の呼びかけに応じる可能性は否定できない。

 中国がその先に見据えるのは「双軌並行」だ。北朝鮮を6カ国協議の場に引き戻し、米国との平和協定締結と引き換えに核放棄を迫る。ただこうした予測が楽観的に過ぎることは中国側も重々自覚しており、むしろ「北朝鮮にどのような補償や圧力を加えようとも、最終段階に入った核・ミサイル開発を止めるのは難しい」(姚雲竹退役少将)との認識が広がっている。

 現実的には、北朝鮮が一定の核攻撃能力を確立させた上で米国との新たな戦略バランスを模索する中、中国も問題解決への決め手を欠いたまま朝鮮半島情勢が悪化し続ける-との展開を想定しているようだ。(北京 西見由章)

■ロシア 影響力強化へ擁護変わらず

 今年3月のロシアの大統領選へ出馬するプーチン大統領。目立った対立候補もなく、同氏が2024年まで政権のトップに君臨することが確実視されている。

 プーチン氏はこれまでと同様、今後も北朝鮮擁護の政策を維持するとみられる。北朝鮮の将来的な崩壊は韓国による南北統一を意味し、国境に親米国家が登場することにつながる。プーチン氏にとってそのような事態は受け入れられず、北朝鮮への国際的な圧力の強化に抵抗しつつ、同国と緊密な関係を保つことで、国際的な影響力も高める戦略をとるとみられる。

 同様の構図はシリア情勢でもみられた。ロシアは国際社会の非難を浴びるアサド政権の擁護に徹し、軍事介入にまで踏み切った。その結果、同政権は息を吹き返し、ロシアはシリアの自国軍の拠点維持に成功した。プーチン氏はさらに、シリアをテコに国際社会での影響力を強める姿勢を鮮明にしている。

 プーチン氏は大統領就任直後の2000年、ソ連・ロシアの首脳として初訪朝し、国際社会での自身の発言力を強めた。自国の立場を強めるために北朝鮮を利用する構図は20年近くたった今でも変化しておらず、プーチン氏がこれまでのアプローチを近い将来変更することは考えがたい。

 ロシアは現在、1990年代に浮上して実現しなかった、朝鮮半島を縦断するガスパイプライン事業などの復活にも意欲を見せている。同事業は巨額の収入源になる上、アジアでのロシアの影響力を高めることにもつながる。ロシアは今後も北朝鮮にかかわり続ける構えだ。(モスクワ 黒川信雄)