【日本の解き方】「3%賃上げ」は手の届く数字、的外れの「官製」批判や精神論 経営者は雇用確保が死活問題

安倍首相

 春闘が本格スタートしたが、今年は安倍晋三首相が要請している「3%賃上げ」が焦点になっている。「官製賃上げ」との批判もある一方、賃金上昇が各国に比べて出遅れているとの指摘もあるようだ。

 労働市場を経済的に分析すれば、雇用は企業活動からの派生需要であり、その雇用状況に応じて賃金が決まってくる。つまり、雇用状況がタイトで人手不足になってこないと賃金は上昇しない。

 いくら労働組合が、労働者の生活確保のために賃上げを要求しても、企業の方で賃金の安い代替的な労働者を確保できるのであれば、おいそれと賃上げには応じてくれないものだ。

 ここでいう「代替的な労働者」とは、職についていない人なので、失業率が高いときには、そうした人が多くいるといって差し支えない。

 逆にいえば、失業率の下限となる構造失業率(NAIRU)に現実の失業率が近くなればなるほど、人手不足になって賃金は上がりやすくなる。

 失業率を下げるための手法は、金融緩和か積極財政によって有効需要を増加させることである。積極財政は、個別分野での有効需要創出には便利だが、金融緩和は全ての経済主体に働くため、満遍なく有効需要を創出し、派生需要を生むので雇用環境を良くする。

 日本の構造失業率は2%台半ばと推計できるので、2・7%(2017年11月)の失業率は、賃上げを誘発しやすい水準といえる。安倍首相はこうした経済環境を理解したうえで、政治的な賃上げ要請にうまくつなげている。

 構造失業率になれば、インフレ率は2%近くまで上昇することから考えると、「3%賃上げ」は手の届かない数字ではなく、実現可能なものだ。これを「官製賃上げ」と批判するのは、賃金決定のマクロ的なメカニズムを理解していないからだろう。

 これまで賃上げができなかったのは、失業率が十分に低下しなかったからであり、マクロ経済政策における有効需要不足が背景にあった。具体的にいえば、緊縮財政指向の中、先進各国は08年のリーマン・ショック以降、大規模な金融緩和に転換したが、当時の日本銀行はそれができず、第2次安倍政権誕生後の13年になって他の先進国と同様の金融緩和を実施するなど金融政策の周回遅れが主たる原因だ。

 その結果、消費拡大が今一歩のところで力不足になり、経済の好循環を達成できなかった。もちろん、消費拡大がかなわなかった理由には、14年からの消費増税の悪影響もある。

 これだけ雇用情勢が良くなると、企業経営者も賃上げをして労働者を確保しなければ、企業経営がたちゆかなくなっている。

 働き方改革や経営者の意識改革などの精神論より、マクロ経済政策によって雇用実態を好転させたほうが、経営者はより雇用を確保しようとするため、賃上げには効果的だ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)