【ニュースの核心】安倍首相が訪韓で「在韓邦人退避」要求、「人間の盾」阻止へ

安倍首相(写真)は訪韓し、文大統領に「在韓邦人退避」の協力を要請する(ロイター)

 安倍晋三首相の韓国訪問をどう考えるか。慰安婦問題を平然と蒸し返した、文在寅(ムン・ジェイン)政権に「平昌(ピョンチャン)冬季五輪の祝意を伝えに首相が出向く必要はない」という意見は理解できる。

 だが、日本は差し迫った重大な問題を抱えている。「在韓邦人の退避」である。朝鮮半島の緊張が高まるなか、観光客を含めて約6万人の邦人をどう日本に退避させるか。いまは安倍首相が、文大統領の理解と協力を得なければならない局面なのだ。

 平昌五輪・パラリンピックを前に、朝鮮半島の緊張は一見、緩んだかに見える。ところが、水面下ではまったく違う。

 ジェームズ・マティス米国防長官と、韓国の宋永武(ソン・ヨンム)国防相は26日、ハワイで会談し、延期している米韓合同軍事演習を3月18日までのパラリンピック終了後、直ちに実施する方針で一致した。

 北朝鮮は「演習凍結」を求めていたが、米国はそんな意思がないことをはっきりさせた。一時の延期は五輪という「平和の祭典」に冷水をかけないための措置にすぎない。

 金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が「核・ミサイル開発」を放棄しない限り、米国は軍事オプションを残している。一部には「演習が、そのまま実戦に移行するのではないか」という見方さえあるほどだ。

 マイク・ポンペオCIA(中央情報局)長官は最近の講演で「北朝鮮のミサイルが米国本土攻撃能力を持つまで、あと数カ月」と語っている。つまり猶予は数カ月しか残っていない。

 そんななか、日本にとって喫緊の課題は在韓邦人の退避問題である。政府は水面下で、韓国に邦人退避のための自衛隊派遣を打診してきたが、色よい返事を得ていない。

 日本は有事となれば自衛隊機や護衛艦、輸送艦などを韓国に送り込んで、大規模な邦人退避活動を展開する方針だ。ところが、韓国が自衛隊の上陸や着陸、接岸に応じなければ、計画は水の泡になってしまう。

 言うまでもなく「邦人の安全確保」は政権の最重要課題である。今回の訪韓は事務方に任せず、安倍首相が現地に乗り込んで直接、文氏に了解を迫る、いわば「背水の陣」で臨む機会なのだ。

 この問題は、文政権の本質を見極めるリトマス試験紙でもある。もしも文氏が断るなら、在韓邦人を「人間の盾」に使って米国の攻撃を阻止する思惑が隠れている、とみていいだろう。

 文政権は平昌五輪の女子アイスホッケーで北朝鮮を優遇し、南北合同チームを編成した。慰安婦問題では日韓合意見直しに動いた。一連の動きは、韓国が「北朝鮮包囲網からの離脱」を模索しているように見える。

 そう考えれば、邦人退避問題でも韓国が日本の要請を拒む可能性は十分にある。

 邦人退避に協力しないのであれば、文政権の「親北容共路線」がいよいよはっきりする。そうなら、日米はそれを前提として、今後の対応を考えなくてはならない。

 安倍首相は訪韓で、慰安婦問題と北朝鮮の「核・ミサイル」、さらに邦人退避問題で文政権に毅然とした態度を示すべきだ。ここは日本だけでなく、米国にとっても正念場である。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。東京新聞論説委員。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革推進会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『ケント&幸洋の大放言!』(ビジネス社)がある。