【ニュースの核心】正恩氏「南北会談」提案の狙い 北「核・ミサイル開発」最終段階に入った証拠、いよいよ「決断の時」迫る

文大統領(右)は与正氏と何度も会い、融和姿勢を強調した(AP)

 北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、韓国に「南北首脳会談の早期開催」を提案した。これはもちろん、「核・ミサイル開発」を進めるための時間稼ぎだ。

 このタイミングで、北朝鮮が「南北首脳会談の提案」という外交的に最高のカードを切ってきたのは、何を物語るのか。「『核・ミサイル開発』が、いよいよ最終段階に入った証拠」と受け止めるべきだ。

 逆に言えば、米国にとっては「決断の時」が迫ってきた。ドナルド・トランプ米大統領は、南北会談提案に前のめりな韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領を引き止めつつ、一段と軍事的圧力を強めるだろう。

 そもそも、この問題は北朝鮮にも、米国にも「締め切り」がある。

 それは、「核とミサイルの完成がいつか」だ。北朝鮮は攻撃を受ける前に米国本土に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)を完成させてしまえば、勝ちだ。一方、米国はその前に北朝鮮に開発を断念させるか、無力化してしまわなければならない。

 昨年末段階で締め切りは「1年程度」とみられていた。だが、マイク・ポンペオCIA(米中央情報局)長官は1月、「あと数カ月以内」と語り、トランプ氏は先の一般教書演説で「ごく近い将来」と語った。

 だからこそ、正恩氏はこれまで温存していた「南北首脳会談」というカードを切ったのだ。会談を開ければもちろん、開かれなかったとしても、南北が「瀬踏み」しているだけで時間が稼げる。

 核とミサイルが完成してしまえば、北朝鮮は交渉で圧倒的に有利になる。「どちらに転んでも損はない」とみているのだ。

 文氏がそんな「北の思惑」を理解していないわけがない。百も承知のうえで、正恩氏の“特使”として訪韓した妹の金与正(キム・ヨジョン)氏に「環境を整えて実現させよう」と答えた。

 文氏の前のめり姿勢は「親北容共路線」を一段と加速し、いまや「核・ミサイル開発」に手を貸して、「事実上、北朝鮮と連携している」と言ってもいいのではないか。

 それは、日本が求めている在韓邦人の退避問題への対応にも表れている。

 文氏は訪韓した安倍晋三首相との会談で、邦人の退避や安全確保で連携する意向を示したと報じられた。

 だが、日韓首脳会談の内幕を知る政府高官は、私の取材に「退避問題で韓国側は極めて慎重だった」と語った。前回の本欄(1月30日発行)で指摘したように、韓国は「在韓邦人を攻撃回避に利用できる」とみているのだ。だから、自衛隊受け入れに反対している。

 日米両政府は公式には「韓国との協調、結束」をうたっている。それは当然である。日米が韓国の姿勢に不満を漏らせば、亀裂を深めて北朝鮮を喜ばせるだけだ。

 だが、事態は「日米韓のガチンコ状態」になりつつある。

 韓国は日米の側に立つのか、それとも北朝鮮の側に立つのか。次の試金石は、平昌(ピョンチャン)冬季五輪・パラリンピック後に予定される米韓合同軍事演習だ。

 韓国は、南北首脳会談を口実に演習凍結を言い出す可能性もある。そんな動きが表面化する前に、トランプ氏は、マイク・ペンス副大統領の帰国報告を待って、いよいよ腹を固めるかもしれない。

 ■長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ) ジャーナリスト。東京新聞論説委員。1953年、千葉県生まれ。慶大経済卒、ジョンズホプキンス大学大学院(SAIS)修了。政治や経済、外交・安全保障の問題について、独自情報に基づく解説に定評がある。政府の規制改革推進会議委員などの公職も務める。著書『日本国の正体 政治家・官僚・メディア-本当の権力者は誰か』(講談社)で山本七平賞受賞。最新刊に『ケント&幸洋の大放言!』(ビジネス社)がある。