【新・カジノ情報局】欲望丸出しの島マカオ オンナで客集め、VIPルームで大金を使わせる

旧リスボアの回廊を歩き回る「回遊魚」と呼ばれた売春婦たち

 マカオの観光産業全体を手に入れたスタンレー・ホウは、人間の欲望をまるごと受け入れるような環境をつくりだしていった。

 まずはギャンブルと性風俗を思う存分楽しませることだった。ぼくがマカオに行きはじめたのは90年代だが、当時は凄まじかった。

 マカオに行くには香港から高速船に乗るのだが、その出発港には旅行代理店が軒を連ね、ホウの経営するカジノホテルの予約と同時に、現地滞在中に一緒にすごす女性を斡旋していた。

 しかもそのやり方は、生写真を見せて選ばせるという、あからさまなものだった。

 英国のチャールズ皇太子はある国での演説のさい、「私は世界で2番目に古い職業の者です」と自己紹介し、観衆を大いに笑わせたことがある。

 これは最も古い職業が売春で2番目が王家であることを前提としたジョークだが、現在もオランダ、ベルギーなどをはじめとして売春が合法の国は多い。マカオもそれが呼び物の1つ。マカオの性風俗には名物になったものもある。1つが旧リスボアの回廊を歩き回る「回遊魚」と呼ばれた売春婦たちだ。リスボアには彼女たち見たさに大勢の男たちが集まってきていた。

 余談だが、北朝鮮の金正男氏がマレーシアの空港で暗殺された直後によく流された映像がある。マカオ滞在時に絞りたてジュースを飲んでいるものだが、その場所がまさにリスボアの回廊で、彼の視線の先には回遊魚が泳いでいたはずだ。

 男の欲望をあらわにさせた上で、さらにギャンブルに金を使わせる方法をホウは考えた。金持ちに専用の部屋で遊ばせるいわゆるVIPルームの運営だ。

 ホウは世界中に代理人のネットワークを作り、大金持ちを招いた。その代理人のことをジャンケットと名付けたので、部屋は後にジャンケットルームと呼ばれることとなった。

 ジャンケットルームの客は特別扱いに気を良くし、気前よくギャンブルをしてたいてい負けた。手持ちが尽きればテーブルから去るべきだが、特別扱いされた人間の心理をホウは熟知していた。そんな客にホウはサイン一つで大金を貸したのだ。

 借金でするギャンブルが勝てるわけがなく、客は負けに負けを重ね、胴元は労せずして儲かるというわけだ。

 たまにカジノで何億も負けた人が話題になるが、それらはたいてい、こうしたやり方にハマったものだ。

 こんな話をすると、ホウが客から容赦なく金を巻き上げる、血も涙もない男のように見えるが、実際はどうなのか。カジノで106億円負けたとして有名になった大王製紙元会長の井川意高氏が、自身のことについて赤裸々に書いた『溶ける』という本があるが、その中にホウの言葉が紹介されている。

 「客が勝って帰るのは怖くない。客にはいくらでも勝ってほしい。負けた客がカジノに来なくなるのが一番怖いのだ」。これがホウの本心かどうか、もちろん、誰にもわからない。(作家、松井政就)=次回「ナンバーワンを狙うシンガポール」