【大前研一のニュース時評】“地雷心理”働いた? 日銀総裁続投、とぼけた政策続けられるのは「黒田さんしかいない」

日銀の黒田東彦総裁

 政府は16日、4月8日に任期満了となる日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁を再任する人事案を国会に提示した。3月中旬に衆参の本会議で採決される予定。任期は5年。日銀総裁を2期連続で務めるのは山際正道総裁(1956-64年)以来。半世紀ぶりの長期登板は、安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」の中核となる異次元緩和を推進した実績からだ。

 黒田総裁は就任直後の2013年4月、デフレ脱却のために「2年をめどに2%の物価上昇の目標を達成する」と宣言し、14年の追加緩和や16年のマイナス金利政策の導入などの政策を総動員したが、5年たった現在も道半ば、達成時期は6回も先送りされた。消費税10%は見送られて来年も持ち越されている。

 非常に危ない緩和政策を続けているのに、その効果は依然として出てきていない。にもかかわらず続投するという。本来なら、あり得ない話だ。

 給料が上がらない時代に、物価上昇率2%を目指すという矛盾した政策を何年も続け、マイナス金利政策も銀行や生保の収益を圧迫するなど金融緩和の副作用の懸念も強まっている。

 また、日銀が量的緩和で買い入れた国債の保有は発行額の4割超に達し、健全な国債市場の形成を阻害している。さらに、上場投資信託(ETF)の買い入れによって株価を維持し、「日本の景気はいい」と主張する。

 そもそも、2%ターゲットは日本では難しいのではないか。日本には多額の金融資産が眠っているが、それが社会を潤しているという実感はない。これが私が何度も指摘している「低欲望社会」の実態だ。

 日本は極端な低欲望社会だが、先進国もおしなべて低欲望社会を迎えつつある。米国もターゲットレート2%と言いながら、なかなか達成できない。物価の伸び悩みは先進国に共通の現象で、金融政策頼みの物価上昇は容易ではない。

 私が学長を務める「ビジネス・ブレークスルー大学」の大学院生から次のような指摘があった。

 「高齢化した官僚ら為政者は、日本国債の暴落、財政破綻が自分たちの在任期間には起こらないとタカをくくっていて、危機回避への緊張感がない。金融政策決定会合も、現状の追認と継続で固定化されている。ならば、40年後も生きていると思われる45歳以下の世代から日銀総裁、副総裁を選出すべきだと思う」

 言わんとすることはわからないでもない。しかし、現在は「裸の王様」のような状況だ。そんなときに、誰かが「王様は洋服を着ていない」と言ってしまうと、その瞬間に崩壊が起こる可能性が高い。

 つまり、矛盾に満ちた戦略をしているところに、まじめな人が金融緩和の縮小などの政策方針の転換をはかると、金融市場の動揺を招き、長期金利の高騰やガラ(大暴落)を引き起こす恐れがある。国債は暴落し、日本はハイパーインフレに足を踏み入れることになる。そんなトランプのババは誰も引きたくない。

 だから、とぼけた政策を真顔で続けられるのは「黒田さんしかいない」ということになる。私は黒田総裁のやっていることは正しいとは思わないが、ここまでくると誰も手を出したくない、という心理が働くのだろう。

 ■ビジネス・ブレークスルー(スカパー!557チャンネル)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。