【国防最前線】やむを得ない自衛隊の南西諸島配備、中国の領土的野望を阻止 石垣市長選“保守分裂”の危機

尖閣諸島周辺海域に侵入した中国海警艦船(右)と、並走監視する海上保安庁の艦船(石垣市の仲間均市議提供)

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 あまり知られていないが、東京・市ケ谷の防衛省には、しばしば地方自治体の関係者が訪れる。陳情の多くが端的に言えば「自衛隊を減らさないで」というものだ。

 自衛隊は地元の誘致で置かれたものも多い。過疎化・高齢化が進む地方にとっては、自衛官の存在は大きくなっている。最近も、北陸での大雪で陸上自衛隊に災害派遣要請があった。

 除雪しても追いつかない行き詰まり感のなか、自衛隊の出動は人々を励ましている。

 自衛官もスコップ1つで雪かきをすることに変わりない。だが、その真摯(しんし)な姿に「諦めずに頑張ろう!」という気持ちになるようだ。

 その自衛隊の限られた人員を、国防上重要な所に重点配備しなければならない情勢となった。それが南西諸島である。削減される地域の人々は不安を隠せないが、現状ではやむを得ない。

 昨年10月の中国共産党大会で、習近平国家主席は「中華民族の偉大なる復興」を掲げ、米国に追いつくだけでなく、いずれ追い越すことを改めて明確にした。「世界一の強国」を目指す期限は、2050年だという。それに向け、中国が太平洋への進出を加速させることを、わざわざ明言したのである。

 つまり、中国艦船が、沖縄県・尖閣諸島近くの接続水域を通過したといった事案に、驚くような次元ではないのだ。「世界を自らの勢力下に置こう」という独裁国家が日本の近くにあり、とりわけ南西諸島は、その野望を邪魔する位置にあることを自覚する必要がますます高まっている。

 「でも、自衛隊が来れば狙われやすくなるのではないか?」

 そんな不安も人々にはまだ拭えない。ただ、沖縄県・石垣島周辺の島嶼(とうしょ)部は地理的に重要な位置にあるため、自衛隊があるなしに関わらず、占領目標となってもおかしくない。

 そうした事情から、2016年に日本の最西端に位置する国境の島、与那国島に沿岸監視部隊が配備され、宮古島では部隊配備に向けた造成工事が始まり、石垣島もそれに続くはずであった。

 だが、3月11日投開票の石垣市長選は「保守分裂」の様相を呈し、結果次第では、同島の計画白紙化の可能性もあるのが現状だ。

 最近、与那国島では子供の遊ぶ声が聞こえるようになった。人口減少が止まらなかった島だったが、自衛隊が家族を連れて入り活気が出たという。これら空白だった地域への自衛隊配備は、災害時の対応能力を飛躍的に高めることになる。

 自衛隊が出動するような事態にならないことが一番いい。ただ、自衛隊がいるメリットと、いないデメリットを判断してもらうために、正しい情報発信が求められる。=おわり

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 防衛問題研究家。1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。テレビ番組制作などを経て著述業に。防衛・安全保障問題を研究・執筆。著書に『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)、『自衛官の心意気-そのとき、彼らは何を思い、どう動いたか』(PHP研究所)など。