【突破する日本】北朝鮮、時間稼ぎで「拉致カード」切るか 日本政府もすでに情報把握

金正恩氏は軍事的緊張が高まると、横田めぐみさんらの「拉致カード」を切ってくるのか(共同)

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 韓国・平昌(ピョンチャン)での冬季五輪が終わった。引き続きパラリンピックが始まる。五輪では日本勢のメダルラッシュに胸躍ったが、北朝鮮による、韓国政府や世論への「微笑み攻勢」も際立った。

 外交で腰が定まらないのは古くからの韓国の伝統芸だ。わが国も慰安婦問題の日韓合意で翻弄されているが、今は文在寅(ムン・ジェイン)大統領以下、北朝鮮に完全に気持ちを取り込まれている。

 北朝鮮は一気呵成(かせい)とばかりに、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の側近で、党副委員長の金英哲(キム・ヨンチョル)氏を派遣した。

 40人以上が犠牲となった2010年3月の韓国哨戒艦「天安(チョナン)」撃沈事件や、同年11月の延坪(ヨンピョン)島砲撃事件などのテロを主導したとされる人物だ。韓国政府はテロを容認し、首謀者を赦したに等しい。

 北朝鮮が韓国に攻勢を掛ける背景には、国連や日米韓の経済制裁が相当効果を上げていることがある。韓国を抱き込み、制裁の抜け道をつくろうということだ。同時に、韓国を人質にして米国の軍事攻撃を回避させようとの意図もある。今後、韓国は米国や日本による北朝鮮制裁への最大の抵抗勢力となる可能性がある。

 パラリンピックも終わり、いよいよ米国による軍事的緊張が高まった時点で、北朝鮮が「拉致カード」を切る可能性もある。信頼できる筋からの情報であり、すでに日本政府も把握している。

 横田めぐみさんら拉致被害者を帰すという話ではない。例によって「再調査する」として時間を稼ごうとの手法だ。拉致被害者を「人間の盾」にして米国による軍事攻撃を避けようというのだ。「拉致カード」が切られたとき、わが国のメディアや世論が堪えられるかも課題だ。

 「平和」は至上の価値であり、人命が犠牲になることもあってはならない。しかし、問題の先送りは北朝鮮の「悪」をより大きなものにし、より大きな犠牲を産み出す。英国の宥和政策はナチス・ドイツを増長させ、「ホロコースト」というより大きな悪を導き出した。歴史の教訓だ。

 北朝鮮の動向は、わが国にも他人事ではない。いや、むしろわが国も当事者になる問題だ。が、五輪開催中ということもあってか、メディアでも国会でも議論が低調だ。国会は「働き方改革」でもめている。厚生労働省の失態が原因だが、野党は相変わらず鬼の首を取ったかのように政府を攻め立てている。

 他方、北朝鮮情勢もあって本来、最も注力しなければならない憲法改正論議は迷走している。本丸の9条についての議論も百家争鳴状態だ。安倍晋三首相の提唱する、自衛隊を憲法に位置付ける意義を分かっていないからだ。

 ■八木秀次(やぎ・ひでつぐ) 1962年、広島県生まれ。早稲田大学法学部卒業、同大学院政治学研究科博士課程中退。専攻は憲法学、思想史、国家論、人権論。第2回正論新風賞受賞。高崎経済大学教授などを経て現在、麗澤大学教授。教育再生実行会議委員、法制審議会民法(相続関係)部会委員、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長など。著書に『憲法改正がなぜ必要か』(PHPパブリッシング)、『公教育再生』(PHP研究所)など多数。