習近平氏、不気味な“沈黙”の思惑 終身独裁狙うも実際は内憂外患、国家分裂の危機

独裁を強めようとする習近平氏だが、実際は内憂外患の状態にあるようだ(AP)

 韓国・平昌(ピョンチャン)冬季五輪が終わり、国際社会の関心は、「核・ミサイル開発」に狂奔する北朝鮮と、ドナルド・トランプ米政権との緊張状態に移りつつある。「従北」で知られる韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、緩和演出に必死だが、トランプ大統領は世界の脅威を高める「核放棄なき融和」など認めない。こうしたなか、不気味な沈黙を続けるのが中国の習近平国家主席だ。朝鮮半島有事を見据えた中国の思惑と、国家分裂の危機とは。中国情勢に精通するノンフィクション作家の河添恵子氏が迫った。

 政治色が前面に出た五輪期間中、存在感が極めて薄かったのが中国の習主席だ。その沈黙を破るようなニュースが、五輪閉幕式当日の2月25日、中国国営新華社通信によって報じられた。

 中国共産党中央委員会が、国家主席の任期を連続2期10年までとする「3選禁止規定」を撤廃する憲法改正案を、3月開幕の全国人民代表大会(全人代=国会)に提出したという。

 改憲案は、習氏への忠誠を誓うか否かを表明する、いわば「踏み絵」となる。反対すれば粛清の対象になりかねないため、出世への野心を抱く次世代には面従腹背しか残された道がない。

 つまり、5日に開幕する全人代で改憲案は可決されるはずだ。2期目をスタートしたばかり、64歳の習氏だが、国家主席として2023年以降の3期目どころか、その先まで視野に入れていると推測する。

 人民解放軍に対し、「死を恐れるな!」と激しい言葉で訓示する習氏が目指すのは、「革命は銃口から生まれる」という毛沢東主席の言葉を上書きした「習軍独裁政権」「終身独裁体制」なのだ。

 ただ、北京から「この1カ月ほど、習氏は震え上がっていた」という情報が漏れ伝わってきた。トランプ政権が1月に発表した「国家防衛戦略」(National Defense Strategy)の内容に驚愕したというのだ。

 同戦略は、習氏の中国を、米国の優位を覆そうとする「ライバル強国」の第一に掲げ、中国やロシアとの「長期的かつ戦略的な競争」が、テロとの戦いに代わる米国の最重要懸案であると強調していた。すなわち、「米中露の新冷戦時代」の幕開けを意味した。

 こうしたなか、習政権の足元はグラついていた。敵対する江沢民元国家主席派の粛清に次ぐ粛清や、軍幹部の強引な入れ替えなどの影響で、「この5年あまりで9回目」とされる暗殺未遂も報じられた。

 第1次習政権で試みた、「朝鮮半島を、南(韓国)から属国化していく戦略」も見事に失敗し、米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)は配備された。かつては「兄弟国」だった北朝鮮との関係も史上最悪で、「1000年の敵」呼ばわりされるまで悪化した。

 頼みの綱だったロシアとの関係も、中国政府が1月下旬、「(中国主導の広域経済圏構想)『一帯一路』構想に北極海航路を入れる」と発表したことで、プーチン大統領を激怒させてしまった。

 内憂外患の習氏だが、朝鮮半島情勢について、表向きは「米朝対話」を主張しながら、本音は大きく違う可能性が高い。「金王朝の崩壊」を狙っているはずの習氏が、それを察知する金王朝の核ミサイルや生物化学兵器の脅威にさらされているとすれば、トランプ政権が軍事オプションに踏み切ることを、内心で期待していてもおかしくはない。

 ただ、習氏のジレンマは、その先にある。

 中国は長さ約1400キロという中朝国境に、数千人から数万人とされる人民解放軍を配備した。だが、いざ戦闘状態に突入すれば、朝鮮族の多い北部戦区(旧瀋陽軍区)の部隊が、どこに銃口を向けるか分からない。

 習氏は、その際のロシアの動向も懸念している。

 4年前のソチ冬季五輪直後、クリミア半島を電撃的に併合したプーチン氏は「ハイブリッド戦争」(=軍事・非軍事の掛け合わせ)を得意とし、正恩氏とは良好な関係を築いている。

 朝鮮有事に乗じて、大量の北朝鮮難民を中国東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)に送り込み、“緩衝ベルト”にして極東シベリアとつなぐ、世界地図の塗り替えを画策しているフシがあるのだ。すなわち、習氏が掌握しきれていない旧満洲の地が無政府状態となり、国家分裂の危機に陥りかねない。

 プーチン氏は、埠頭(ふとう)1つを租借した北朝鮮の羅津(ラジン)港だけでなく、韓国の釜山港をも租借地にしたいと考え、「北朝鮮主導の朝鮮統一」にも力を貸すはずだ。

 これらが現実となれば、中国だけでなく、日本の安全保障にも甚大な影響が出かねない。

 “同床異夢”の米中露の勝者は誰なのか?

 ■河添恵子(かわそえ・けいこ) ノンフィクション作家。1963年、千葉県生まれ。名古屋市立女子短期大学卒業後、86年より北京外国語学院、遼寧師範大学へ留学。著書・共著に『豹変した中国人がアメリカをボロボロにした』(産経新聞出版)、『「歴史戦」はオンナの闘い』(PHP研究所)、『トランプが中国の夢を終わらせる』(ワニブックス)、『中国・中国人の品性』(ワック)など。