【日本の解き方】裁量労働制「除外」の本音と建前 連合の顔色見て反対する野党、経済界の意向もある程度通る

安倍晋三首相

 裁量労働制をめぐり、国会が紛糾した。安倍晋三首相の決断で、今国会に提出される法案は、裁量労働制拡大を除いたものになった。これによって急転直下の解決になるのかどうか。

 労働時間をめぐる不適切データが問題となったが、先日の本コラムで書いたように、裁量労働の労働時間というのは労働者本人すら分かりにくく、どう調査したのか気になっていた。

 国会で加藤勝信厚生労働相が、調査は民主党政権時代に企画されたものだと答弁した。今の役人は、前任か前々任者が企画したものについて国会対応しているわけで、釈然としないだろう。

 そもそも裁量労働者の労働時間は、はなはだ怪しいものだし、それを聞く労働基準監督署の人も、どのように聞くのかという根本問題もある。

 今一度実態を明らかにする必要が出てきている。野党も、今の厚労省の杜撰(ずさん)な話を追及して、自分たちが企画した調査自体がデタラメなものだったらどうするのだろうか。

 ここで、裁量労働問題の関係者の政治力学を考えてみよう。もともと経済界が労働市場に求めていたのは、ホワイトカラーエグゼンプション(労働基準法の適用除外)である。ところが、これが「残業代ゼロだ」として、批判を浴びた。

 そこで、ホワイトカラーエグゼンプションを「高度プロフェッショナル制度」として対象者の年収を1075万円以上とするとともに、今回問題になっている裁量労働への2業務(課題解決型提案営業、裁量的にPDCAを回す職務)の追加と、労働界向けの残業上限規制をセットにして、今国会に提出しようとした。

 野党は、3分裂した民進党がそれぞれ連合の支持を得ようと裁量労働の拡大に反対している。というのは、残業上限規制はもちろん賛成だし、高度プロフェッショナル制度の対象が年収1075万円以上となって、対象者が4%程度と少ないことが誰の目にも明らかになったので、消去法として裁量労働の拡大反対を注力せざるをえなくなったからだろう。

 実は、現在の裁量労働の対象者は2%程度しかいない。仮に2業務を拡大しても、増える対象者は大した数にはならないだろう。しかも、厚労省の調査自体が怪しいものだったこともあり、安倍首相は、裁量労働を外す決断をした。この結果、高度プロフェッショナル制度と残業上限規制の2点セットで今国会に提出される見込みだ。

 欧米における労働法制適用除外対象者の労働者に対する割合は、米国で2割、フランスで1割、ドイツで2%程度といわれている。

 日本の高度プロフェッショナル制度が欧米並みとはいえないまでも、経済界の意向はある程度通り、労働上限規制が入ったので労働界のメンツも立ったというところだ。

 もともと経済界では裁量労働の拡大要求はそれほどでもなく、効果が限定的だったことも安倍首相の決断を後押ししたのだろう。18年度予算案の衆院通過にも支障が出てきた段階なので、野党へ一定の配慮をすることとなったわけだ。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)