【日本の解き方】前川喜平氏が説く「数学必修廃止論」に疑問 出会い系バーでの「貧困調査」の具体的な成果なぜ示さないのか

前川喜平氏

 前川喜平・前文部科学事務次官が週刊東洋経済4月14日号で、貧困対策の一つとして、「高校中退をなくすには数学の必修を廃止するのがいい」と発言している。

 前川氏の発言を引用しよう。

 「高校中退を防ぐのも貧困対策の重要なテーマだ。私が行っていた出会い系バーでも女の子はほとんど中退で、親のほうが学歴の高いケースがけっこうあった。(中略)中退をなくすには数学の必修を廃止するのがいい。(中略)数学は義務教育までで十分。論理的思考力を養うために必要というが、それは国語の授業でやったらいい」

 高校中退を防ぐという方向性はいいだろう。低学歴者は低所得になりがちで、犯罪率も高いことは各種の調査で示されている。

 せっかく「貧困調査」で出会い系バーに通ったのだから、前川氏には延べ何人の女の子を調査し、その中で高校中退の数は何人だったのかを示してもらいたかった。さらに、高校中退の理由はどうだったのか。これも貧困調査を行ったのならば当然示せるだろう。そうした調査の成果が具体的に示されていないので、実のところ、前川氏が説く数学必修廃止論の理由はよく分からない。

 高校の必修科目は、国語、地理歴史、公民、数学、理科、保健体育、芸術、外国語、家庭、情報である。ここから数学を除くのは違和感がある。

 数学は、定義を定め、仮定から結論を導く学問だ。その際、数理論理だけが用いられる。この数理論理は厳密・論理的なので、言語障壁がない。つまり、外国語が読めなくても、数理論理は理解可能だ。おそらく人類が知る限りで、最も論理的な「言語」といえるだろう。筆者は、もし宇宙人と初めて会ったら、数学を使って会話するだろう。

 このような「言語」を学ばないのはもったいないと思う。最も論理的なので、論理的思考力にも良い影響があるだろう。前川氏は数学を国語で代替できるというが、論理形態が異なるので難しいだろう。

 なにより、数学をある程度知らないと、自然科学のみならず多くの社会科学を習得することはできない。数学の必修廃止は日本の国力を低下させることにつながるのではないか。特に、社会に必要なエンジニアの育成にも支障が出るだろう。

 文部科学省による調査をみても、高校の中退理由は、「学業不振」が1割弱、「学校生活への不適応」が4割、「進路変更」が3割強である。つまり、数学必修を廃止しても、中退理由の1割も除くことができない。数学の必修化をやめれば中退が少なくなるとの結論を導き出すことはできないだろう。

 これらの理由の推移をみると、かつては学業不振が多かったが、最近は低下しており、学校生活への不適応が徐々に増えている。

 他校への転校などの進路変更はいいとして、学校生活の不適応をいかに減らすかが、中退を防ぐためには重要だろう。前川氏の出会い系バーにおけるフィールドワークに基づく具体的な対策を聞いてみたい。(元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)