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【語り継ぎたい天皇の和歌】先人の美意識と風土に託す

 わが国では古来、天皇陛下の和歌を「御製(ぎょせい)」、皇后陛下の和歌を「御歌(みうた)」と称してきました。初代神武天皇から新たに「令和」天皇となる皇太子殿下まで、百二十六代の天皇は和歌を詠まれているのです。折しも新時代の元号が初めて国書である『万葉集』からの出典となりました。実は今、和歌を世界文化遺産に登録しようという動きも始まっています。

 こうした時代背景の中、本稿では歴代の天皇の和歌を紹介していきます。『小倉百人一首』にもおさめられた有名な和歌もあれば、新元号の典拠となった『万葉集』にも天皇の和歌は存在しています。名高いものから隠れた名歌まで、「令和」時代に生きる人々の必修ともいえる和歌をここでは取り上げます。

 第一回は明治神宮の「おみくじ」としても親しまれている明治天皇の和歌です。生涯に9万数千首もの和歌をお詠みになられた明治天皇。斎藤茂吉が約1万8000首、与謝野晶子が約5万首を残した中、それさえもはるかに上回る特筆すべき歌数です。いかに和歌を尊ばれたのかがうかがえるのではないでしょうか。

 今回はまず、「うみこえてはるばるきつる客人にわが山水のけしきみせばや」という一首を紹介します。「海を越えてはるばるやって来てくれた客人に日本のすばらしい山や水の風景を見せたいなあ」という歌意の和歌。季節ごとにさまざまな花が咲き、色とりどりの果実も実る日本。山桜の美しさ。清流のせせらぎ。鳴き響(とよ)む鳥たちの歌声。春には花びらが花筏(はないかだ)となり、晩秋には川面さえも染めあげていく紅葉(もみじ)の錦の見事さ。宙(そら)に映(は)える星々を讃え、満月以外に三日月や十六夜の月の麗しさも認識した先人の心。野に咲く花にも敬意を表し、庭木に積もった雪を「綿帽子」と名づけた感性。そんな先人たちの美意識すらも育んできたこの国の風土のすばらしさを客人にも味わってもらえたらと明治天皇は希(こいねが)われたのでした。お人柄が偲ばれます。

 「令和」時代も、日本が「地球の応接間」であってほしいと願いつつ、今後も天皇の和歌を紹介して参ります。(歌人、作家)