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【語り継ぎたい天皇の和歌】秋にあえて「土」という独自の視点

 「天高く馬肥ゆる秋」と称されるように、秋は澄んだ空が高く感じられます。多くの人々が古来、秋の空の高さや美しさを讃えてきました。けれども、第90代亀山天皇はあえて、空のみならず「土の色にぞ秋もみえける」と独創的に表現しています。

 「あらかねの」は「土」を導く「枕詞」です。「天を吹きわたる風が空にあらわれる一方で、実は土の色にも秋の気配が感じられているものだなあ」という歌意です。つい空を見上げたくなる季節に、あえて土の色や大地の表情に心を寄せる亀山天皇。独自の視点と豊かな感受性を感じさせてくれる一首です。

 鎌倉時代に即位された亀山天皇といえば、院政時代の「元寇」への対応が現在でも語り継がれます。モンゴル帝国及びその属国だった高麗王国が日本に襲来した際、亀山院は「身をもって国難に殉ぜむ」という強い決意でした。『増鏡』には、もし日本が侵略されるようなことがあればどうかこの命をお召しください、と筆をとられたことが記されています。「世のために身をばをしまぬ心ともあらぶる神はてらしみるらむ」とも詠んだ亀山院。亀山院はこの願文を伊勢神宮、熊野三山にも奉げました。

 ここまでの強い決意と思いの深さで、院政をおこなっていた亀山院。政治改革にも取り組み、「徳政」を実践したことでも知られています。

 そんな亀山院は、「四方(よも)の海浪をさまりてのどかなる我が日(ひ)の本(もと)に春は来にけり」という作品も詠み、平和を希求し続けたかたでした。笛や琵琶などの芸能にも長(た)け、和歌への造詣も深かった亀山院は、藤原為氏に勅撰集編纂(へんさん)を命じ、1278(弘安元)年12月に『続拾遺和歌集』が誕生しています。

 「とほざかる声ばかりして夕暮れの雲のいづくに雁のなくらん」という御製(和歌)も詠む実力派歌人。「近づく声」ではなく、あえて「遠ざかる声」を詠み、移ろいやすい「秋の時の流れとせつなさ」を巧みに示した表現力。さすがに先人の評価も高く、勅撰和歌集には100首以上が紹介されています。(歌人、作家・田中章義)

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