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【語り継ぎたい天皇の和歌】自身を振り返り、行為や過ちを省みる

 令和元年も残りあとわずかとなりました。掲出歌は明治43年の作品です。明治天皇の御製(和歌)と接すると、「おのが身をかへりみる」ということがキーワードの1つであることを実感します。「天(あめ)をうらみ人をとがむることもあらじわがあやまちをおもひかへさば」(天を恨んだり、他者を咎=とが=めるようなことはない。自身を振り返り、自分の行為や過ちを省=かえり=みてみると)ともお詠みになられた明治天皇。

 何かあると、つい自身のことは棚にあげ、他者のせいにしたり、他人の批判ばかりを重ねてしまいがちです。けれども「おのが身をかへりみる」と、他者のことを決して言えない自身のおこないがあることに気づくこともあります。「人のうへのみいふ世なりけり」--「他人の悪口や身の上ばかりをとやかく言ってしまっている世の中だなあ」という述懐を詠むことで、今一度、明治天皇は「おのが身をかへりみる」ことのたいせつさを思っていらしたのでした。

 歴代の天皇は大地震や洪水、凶作や疫病の大流行などがあると、常に「おのが身をかへりみる」という作業を重ねました。自然からの警告である災害を決して他人事にはしなかったのです。明治天皇には次のような御製もあります。

 「暑しとも いはれざりけり にえかへる 水田にたてる しづを思へば」

 (煮えかえるような暑い水田で田草を採っている農夫のことを思えば暑いなどとはたやすく言い得ない)という歌意です。民の暮らしを思い、日常生活では質素であることを心がけ、寒い日でも火鉢ひとつで過ごしたと語り継がれる明治天皇。100年以上前に詠まれた作品を思い返しつつ「おのが身をかへりみる」という心の大掃除や心の棚卸の必要性を思うのでした。

 明治天皇には「をしめども今年はくれぬあたらしき初日のかげにいざやむかはむ」という御製もあります。「どんなに名残り深く、惜しいことであっても今年はもう暮れてしまった。やがて迎える新しい初日のひかりに向かって、いざ歩み行こう」という歌意です。はじまったばかりの令和が来年以降、さらにすばらしい時代となることを願う年の瀬です。(作家、歌人・田中章義)