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【昭和のことば】「ある日突然、人間が消えてしまう」現象 蒸発(昭和42年)

 昔はよく聞いたが、さすがに最近はあまり耳にしないことばだ。家出、失踪、行方不明、「ある日突然、人間が消えてしまう」現象に「蒸発」と名付けたのは、直木賞作家の藤井重夫(受賞作『虹』)だと言われている。

 その後、昭和42(1967)年に『週刊朝日』がこの現象をテーマに特集を企画、また今村昌平監督のドキュメンタリー映画『人間蒸発』が重大な人権問題を引き起こし、そのことにより、この「蒸発」ということばが広く世間に知れ渡った。

 この年の主な事件は、「第2次佐藤栄作内閣成立」「東京都知事に美濃部亮吉が当選」「公害対策基本法公布」「四日市ぜんそく患者が石油コンビナート6社を相手に提訴」「三派系全学連反対デモで学生1人死亡(第1次羽田事件)」「吉田茂没、戦後初の国葬」「小笠原返還を明示した日米共同声明発表」など。

 本は大江健三郎『万延元年のフットボール』、多湖輝『頭の体操』。映画は『日本のいちばん長い日』。テレビでは『スパイ大作戦』がはやった。スポーツでは、藤猛がプロボクシングジュニアウエルター級世界選手権獲得、ユニバーシアード東京大会開催。グループサウンズブームの頂点にザ・タイガースが立ち、巷では「フーテン族」が生まれた。

 ネットやSNSのない時代、家出人捜索のためのテレビ番組が放映されていた。突然家族の前から姿を消してしまった人を公開、情報が集まる経緯を生放送で伝えていた。

 失踪者は現在も後をたたない。だが、これだけの情報化社会、昔に比べ手がかりは多い。失踪者の安全確保のための情報網なら大歓迎だが、やり直しの機会を奪うものなら、時代はより過酷になったと言える。=敬称略(中丸謙一朗)

 〈昭和42(1967)年の流行歌〉 「ブルー・シャトウ」(ジャッキー吉川とブルーコメッツ)「世界は二人のために」(佐良直美)「小指の想い出」(伊東ゆかり)

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