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【大前研一 大前研一のニュース時評】日本企業のコロナワクチン開発が遅いワケ 研究開発は加速も鈍い認可プロセス…創薬手法で人材面の問題も

 日経新聞は16日、「コロナ新薬、日本勢も着々」という記事を掲載した。新型コロナウイルスの治療薬について、新技術を駆使した開発が大詰めを迎えているというもの。

 武田薬品工業は抗体活用で臨床試験(治験)が最終段階に入り、ロート製薬も脂肪由来の幹細胞を用いた再生医療技術を活用、東大発のバイオベンチャー、ペプチドリームは富士通の高速コンピューターを使って新薬研究開発を加速している。

 さまざまな創薬手法が技術間競争の場になっているという。ただ、認可するプロセスが、なかなか日本では進まない。

 ワクチンの臨床試験は第I相(フェーズI=数十人の健康なボランティアに対する治験)、第II相(フェーズII=感染症が発生している地域で数百人に対して行う治験)、第III相(フェーズIII=数千人の参加者に対する治験)の3段階に分けられる。

 フェーズIIIで集計されたデータを日本では厚生労働省、米国では食品医薬品局(FDA)が検証、審査して認可し、一般に使用できるようになる。

 フェーズIIまでの証拠を出し、フェーズIIIでは臨床試験をしてこういう副作用があったなどの調査をして、かつまた有効性はこんな形で出てきたということをきちんと示さなければならない。これは結構時間のかかる大変な作業だ。「日本勢が着々」という記事は、若干、希望的観測もあるんじゃないか。

 日本企業の新型コロナのワクチン開発が遅いのは、もう1つ理由がある。

 今回、米国製薬大手「ファイザー」が承認の先陣を切り、米国のバイオ企業「モデルナ」、そして英国の製薬大手「アストラゼネカ」が続いた。ファイザーとモデルナのワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝情報を伝える「メッセンジャーRNA(mRNA)」を活用したもの。

 mRNAは従来型のどのワクチンにも属さない新規のもので、バイオテクノロジーを用いた最新医療技術から生まれた。従来のワクチンは生きた細胞内でウイルスそのものを増やして利用するが、mRNAワクチンは遺伝子そのものを大量合成して作る。作り方からしてまったく違う。

 アストラゼネカは人間の体内では増殖しないウイルスをオックスフォード大学と共同で開発したが、ファイザーもドイツのビオンテックという新興のバイオ医薬品企業と組んでいる。それぞれバイオの新しい技術を持つところをパートナーにしている。ビオンテックの創業者夫妻はトルコ系移民家庭出身で、昔から論文も数多く書いていることでも知られている。

 従来のワクチンは、感染症を起こすウイルスを入手し、それを培養して毒性を弱める研究をして開発に取り掛かった。製品化までには5年以上を要した。

 これに対し、mRNAワクチンなど遺伝子ワクチンはウイルスの一部のみを複製するため、開発に要する期間が短くて済む。発想そのものが新型だ。

 一方、日本では製薬会社だけでなく学者も含め、こういう技術に取り組む人、こういった別の角度からワクチンの研究をしている人は非常に少ない。ここに日本のワクチン開発の人材面の問題があると思う。

 ■ビジネス・ブレークスルー(BBTch)の番組「大前研一ライブ」から抜粋。

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