政府の説明不足、原発事故の恐怖深める

2012.03.24


福島第1原発=2011年11月12日、福島県大熊町【拡大】

 あの震災から1年が過ぎ、いまだに大量のがれきが残り、被災地の復興を妨げている。理由は「放射能のがれきはごめん」という住民の声に押され、受け入れ表明したはずの自治体までが後ずさりしてしまったからだ。もちろん検査が行われ、安全という説明が行われているにもかかわらずである。

 かつて「支え合う」とか「絆」といった表現で日本人同士が負担を分かち合う美徳が強調されたことがあった。そう思っていた矢先、ロサンゼルス・タイムズ紙の記事に目がとまった。

 記事は原発事故後1年にもなるのに、いまだにアメリカではすしを食べず、日本に旅行さえしない人がいることに対して書かれたものだ。筆者は放射能危険評価の専門家2人。1人はチェルノブイリと福島での事後調査にも関わっている。

 それによると、人類は常に宇宙からの放射線にさらされており、生涯浴びる放射線の半分は宇宙からだ。だが、残りの大半はCTスキャンやレントゲンなど医療や健康維持に必要なための人工的放射線で、1度に一気に浴びるのが特徴だ。

 CTスキャンの場合、宇宙から浴びる1年分の放射線の7倍を1度に受けることになる。が、それを恐れてCTスキャンやレントゲンの検査を拒否する人はほとんどいない。

 また、大量の放射能をばらまいたチェルノブイリについても意外と放射能による被害は小さかったと指摘している。

 事件後、汚染されたミルクを飲み、かつ放射能吸収阻止剤を飲まなかった児童はほぼ全員が甲状腺がんを発生させたのだが、そのほとんどのケースは治療され死に至らなかった。さらに事故現場の処理に従事した労働者50万人を詳しく調べたところ、白血病が生じた確かな証拠は皆無だった。

 つまり、放射能汚染の度合いがチェルノブイリの10分の1という福島原発の場合、被害はほとんどないに等しいはずで、福島原発で働いていた50歳の男性が事故後、ガンになる可能性は42%から42・2%に上昇する程度だという。

 この数値はニューヨークの人がデンバーに移り住んだのと同じ程度だ。

 では、なぜ福島原発事故の汚染がこれほど恐怖をふりまくのか。おそらく政府と科学者がリスクの度合いなどについて十分に説明していないため「科学的思考ができなくなり、過剰恐怖症に陥ったのではないか」と、2人はみている。

 しかし、過剰恐怖症に陥ったためとはいえ、すしを拒否するアメリカ人と、被災地のがれきを拒否する日本人では全く違う話のような気もする。神奈川県知事に対し絶対反対を叫ぶ住民たちの表情をテレビで見ていて多くの人が寂しい思いをしたのではなかろうか。

 親日家で知られるシャネル日本法人社長は最近、東日本大震災を題材にした小説をフランスで出版し、その中で住民ががれき拒否をしていることについて「絆はどこへ行ってしまったのか」と問いかけているそうだ。

 ■前田徹(まえだ・とおる) 1949年生まれ、61歳。元産経新聞外信部長。1986年から88年まで英国留学。中東支局長(89〜91年)を皮切りに、ベルリン支局長(91〜96年)、ワシントン支局長(98〜2002年)、上海支局長(06〜09)を歴任。

 

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