血塗られた英国の歴史を秘める女王宮殿

★イギリス「ロンドン塔」

2012.09.14


ロンドン塔の象徴ホワイトタワー【拡大】

 先月ロンドンで開催された夏季オリンピックでは、日本は健闘して2004年のアテネ大会の37個を上回る38個という史上最多のメダルを獲得しました。このメダルはオリンピック開催前には「クラウン・ジューエル(王権の表す儀式用の宝石類)」と同じくロンドン塔にて保管されていました。

 そこで今回は18世紀英国文壇の大御所ジョンソン博士に「ロンドンに飽きた人は、人生に飽きた人である」と言わせたロンドンでも人気の高いロンドン塔についてお話しします。

 前回この講座でパリを紹介しましたが、パリからロンドンを訪れて何かが違うと感じた方も多いと思います。その一番の理由は、パリは共和国の首都ですがロンドンは女王陛下の都であるという点です。

 ロンドンの公共の場所では、いたるところにE・R・IIという表示がありますが、これはエリザベスのE、女王を意味するラテン語のレギーナのR、2世を表すIIの略字です。ロンドン塔の衛兵ビーフ・イーターもエリザベス1世を示すERの赤い縫い取りを付けています。

 ビッグベンで知られる国会議事堂からテムズ川沿いに東へ行くとタワーブリッジの手前にロンドン塔のキープ(天守閣にあたる)であるホワイト・タワーが見えてきます。これはイングランドを征服したノルマンディーのウィリアム征服王が、1079年に築いた白亜の石造りの塔でロンドン塔の象徴です。

 この内部には中世の鎧、甲冑、武具などが所狭しと展示されていますが、その中でも特に印象に残るのは一つのピカピカに磨きあげられた鋼鉄製の鎧かと思います。これは大勢の罪のない人間を断頭台に送ったヘンリー8世のものです。「ユートピア」の著者トマス・モアも彼の再婚に反対したため処刑されましたが、彼は断頭台で首切り男に対して「首尾よく切って下さい。でもわしの髭には罪がないので、この髭は切り落とさないように頼みます」と言ったそうです。

 「国王の臣として、されどまずは神の下僕として」との言葉を残し、時の権力者ヘンリー8世の離婚問題に反対して処刑されるも、最期までユーモアを忘れなかったトマス・モアの平静心には、日本の戦国武将たちの切腹に似た武士道精神と同時に英国人特有のユーモアのセンスを感じ、私は深く感銘を受けました。

 ■黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ) 慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム(株)テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、旅について熱く語る。

 

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