“カンボジア人の誇り”に静かな感動…王朝の繁栄物語る

★クメール建築の最高傑作アンコール・ワット

2012.12.14


静かな感動を与えてくれるアンコール・ワット【拡大】

 既視感(デジャヴュ)という言葉があります。一度も体験したことがないのに、すでにどこかで体験したことのように感じることです。

 私はアジアを旅行していると時々このデジャヴュに遭遇します。静かで不思議な感動を伝える信仰や土着民族の風習、懐かしいと感じる風景など、五感に新鮮な驚きがあふれ、肌ににじんだ汗が地元の空気になじむ頃、このデジャヴュがやってきます。

 とりわけ、アジアの三大仏教遺跡の一つ、カンボジアのアンコール遺跡を初めて訪れた際には強く感じました。この感動は私たち日本人が忘れていたものか、それとも持ったことのないものなのかどうかは分かりませんが、アジアに生きる自分を実感できるのです。

 このアンコール遺跡は、一般的にアンコール・ワット(寺院都市)の名前で知られていますが、これはカンボジア王国シェムリアップ州にあるアンコール・トムなどの大小複数の遺跡の一部です。アンコール・トムはクメール王朝最盛期の12世紀末から13世紀初めにかけてジャヤヴァルマン7世が築いた城郭都市で、その中心はバイヨン寺院です。寺院の尖塔(せんとう)には王が最も崇拝した観世音菩薩の四面像が刻まれており、四方八方からこの「クメールの微笑」に囲まれると壮観で、気持ちも安らぎ、信心深い気持ちにさせられます。

 アンコール・ワットはスールヤヴァルマン2世の治下、1113年から約30年かけて建立されたヒンドゥー教寺院で、王はこの寺院に王権の神格とクメール(カンボジア)文化独自の宇宙観を表現しました。すなわち高さ60メートルの中央塔の周りに4基の塔を配した祠堂(しどう)は世界の中心の須弥山(しゅみせん)、周壁は雄大なヒマラヤの霊峰、環濠は深く無限の大洋を象徴しています。

 回廊には豪華絢爛(けんらん)で精緻なレリーフが施され、特に第2回廊に描かれたヒンドゥー神話の天地創造に関する「乳海撹拌(かくはん)」図は必見です。また、この寺院は西を向いて建っているので、朝日を浴び、シルエットとなって浮かび上がる姿も格別です。

 しかし、私のお薦めは王都の中心、須弥山を表現したとされるプノン・バケンからの日没風景です。夕陽に染められていく素晴らしい景色を眺めていると、自然の偉大さを感じると同時にデジャヴュに遭遇し、タイムスリップしてアンコール朝に戻ったような疑似体験が味わえます。

 ■黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ) 慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム(株)テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、旅について熱く語る。

 

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