【衝撃事件の核心】「朝鮮人は呼吸するな」暴走する右派系市民グループ

2013.05.13


 神鷲皇国会が旗振り役となった街宣活動に抗議する市民ら=3月31日午後、大阪市のJR鶴橋駅前【拡大】

 「朝鮮人は呼吸するなーっ!」。在日韓国・朝鮮人らに悪罵(あくば)を投げつけ、排外主義的な主張を繰り返していた関西の右派系市民グループが、幹部らの相次ぐ逮捕により解散に追い込まれた。昨年夏ごろに発足し、インターネットの動画サイトなどで急速に存在感を増していた「神鷲皇国会(しんしゅうみくにかい)」だ。それから1年足らず。敵意の矛先はたまたま自宅を訪ねた電気代の集金係、たまたま公衆トイレで隣り合ったお年寄りにも向けられ、右も左もない“無差別状態”に。暴走の背景に何があったのか。

■事件1 電気代踏み倒し

 3月12日昼、大阪市内のマンション。滞納料金の徴収に訪れた関西電力の係員は部屋の主から応答がないため、その場で送電をストップさせた。

 電気が切れた瞬間、居留守をやめて飛び出してきたのが住人の少年(18)だった。「何するんや、今週くらい待たんかい」とまくし立て、持ち出してきたのが神鷲皇国会と日章旗のステッカーが張られた拡声器だったという。

 「俺は、右翼やっとんねん!」

 決めぜりふで脅した少年は料金約1万2千円の請求を断念させ、送電も再開させた。

■事件2 82歳への暴行

 大阪・難波の地下街「なんなんタウン」の一角。飲食店が軒を連ね、サラリーマンや学生らが行き交う通路で騒動が起きた。

 3月19日の午前9時ごろ。同会事務局長の男(41)はなんなんタウンの公衆トイレにいた。

 前日に東京で活動し、知人宅に泊まって帰宅する途中。拡声器を肩にかけたその姿を奇異に思ったのだろうか、その場に居合わせた男性(82)がのぞき込むしぐさを見せると、事務局長はいきり立った。

 「何見とんねん、オモテ出ろ!」

 事務局長はトイレ前の通路まで男性を連れ出し、胸ぐらをつかんだ上、眼鏡を取ってその場で踏みつけた。男性は眼鏡をつかみ取られた際に、ほおに切り傷を負った。通報で警察官が駆けつける前に事務局長は立ち去ったが、一連の行動は近くの防犯カメラに克明に記録されていた。

■事件3 博物館脅迫

 神鷲皇国会の最高顧問なる肩書を持つ男が気に入らなかったのは、神戸市立博物館(神戸市中央区)で開催予定の特別展「中国王朝の至宝」だった。

 「特別展の無期限延期を要望する。不特定多数の右翼の同志に呼びかけを行うこともあり得る。けが人が出ても、わしに止めることはできへん」

 1月29日、同博物館に電話をかけ、脅迫の文言を並べたのは政治団体「愛国播磨雄(はりまお)会」元代表でもある桂田智司被告(52)だ。沖縄県・尖閣諸島をめぐる対中感情の悪化を理由に、約1時間半にわたり至宝展の延期を要求した。

 同博物館は要求に応じず、予定通り2〜4月まで至宝展を開いたが、開催期間中には、街宣車による抗議活動も繰り広げられた。

■ヘイトスピーチで注目

 一連の事件をめぐっては、まず兵庫県警が4月10日、暴力行為処罰法違反容疑で桂田被告を逮捕。大阪府警は同18日に恐喝容疑で少年を、翌19日に傷害などの容疑で事務局長を逮捕した。少年は5月9日に家裁送致され、事務局長は処分保留で釈放された。

 公安当局によると、3人がたて続けに逮捕されたことで、10人程度のメンバーで構成されていた会は大きく動揺した。18日に少年が逮捕された直後、関係者とみられる複数の人物がツイッター上で解散を宣言。「活動とは関係ないところで逮捕されたことは大変に遺憾」と嘆く書き込みもみられた。

 そもそも、神鷲皇国会とはいかなる組織なのか。政治団体の届け出はなく、「ネット情報以上はなかなか分からない」(公安関係者)とその実態はつかみづらい。

 公安関係者によると、一部のメンバーが市民団体「在日特権を許さない市民の会」(在特会)の活動に感化され、グループを立ち上げたとされる。その後、関西在住の在特会員らでつくる「チーム関西」の元メンバーらとともに街宣活動をする中で、昨年夏ごろから神鷲皇国会を名乗るようになった。

 在日韓国・朝鮮人が多く住む大阪の鶴橋で昨年9月に行われた「日韓国交断絶国民大行進」というデモに協賛団体として参加。以後、大阪で毎月のように行われた街宣で「ゴキブリ」「ウジ虫」「死ね」「殺す」といったヘイトスピーチ(憎悪表現)を連呼し、その様子を動画投稿サイトにアップすることで注目を集めた。

 今年2月には大阪市内で行われた国交断絶大行進の主催者として名を連ね、3月31日に鶴橋で実施された「特亜殲滅カーニバル」というデモも、同会が旗振り役になった。沿道には彼らのヘイトスピーチに抗議する団体も繰り出し、警備の警察官を挟んでにらみ合いになった。

■思想なき、鬱憤晴らし

 捜査関係者によると、少年と事務局長は同会に参加するまで、活動家としてはまったく無名の存在だったという。

 少年は高校中退後に働いたが長続きせず、街宣にのめり込んでいったとみられる。メンバーの中で右翼活動家として公安当局にその名が知られていたのは、桂田被告くらいだった。

 公安当局は街宣やネットで知り合った“緩い”つながりが、同会の基底を成しているとみる。

 「バカ、ボケとひたすら悪口雑言を繰り返すだけで思想は皆無といっていい。つまりは単なる鬱憤晴らしだ」(公安関係者)

 ストレスのはけ口を求めるための活動ならば、それが在日韓国・朝鮮人に向かうこともあれば、集金係やお年寄りに向かうこともまた、あり得る。彼らの内にあったのは他人への敵意だけなのかもしれない。

 大阪や東京で相次ぐヘイトスピーチを踏まえ、安倍晋三首相は7日の参院予算委員会でこう訴えた。

 「他国を誹謗(ひぼう)中傷することでわれわれが優れているという認識を持つのは間違っている。日本の国旗が焼かれても、その国の国旗を焼くべきではない。それが私たちの誇りだ」

 

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