政府は「対日直接投資推進会議」を4月中にも新設し、対日直接投資残高を2020年に35兆円に倍増させる目標に向け体制を整えると報じられた。
日本への直接投資は、対GDP(国内総生産)比でみると、せいぜい数%であり、米・独の20%程度、英の50%程度と比べるとかなり低い。対日直接投資を増やすにはどうすればよいのだろうか。
自国への対内直接投資を推進する国は、先進国を含めて多い。その理由は、なにより対内直接投資の雇用創出効果が大きいからだ。どこの国でも、雇用問題は重要な柱なので、対内直接投資によって生産拠点が国内に作られ、国内で雇用が確保され、輸入しなくてもすむようになれば、とても好ましい話だ。
さらに、対内投資は、海外の経営手法を国内に取り入れたり、海外の技術を国内に移転したりできれば、国内産業にもプラスの効果になる。
超長期でみれば、日本の経常収支は黒字から赤字になるだろう。これは「クローサーの発展段階説」という経済理論の考え方であるが、いずれ、日本も「未成熟な債権国」、「成熟した債権国」という段階を経て、最終的には「債権取り崩し国」になると長期的には見込まれている。もっとも、これは長期的な見方であって、ここ数年の動きを予測できるわけでない。
とはいえ、いずれは経常収支も赤字化していくことが予想される場合、経常収支の赤字をどのようにファイナンスするかという問題には直面せざるを得ない。逆にいえば、リファイナンスさえできれば、経常収支が赤字であっても経済成長にはさしたる影響はない。
経常収支赤字の国でも、多くの場合、経済成長率が落ちないのは、このリファイナンスがうまくいっているからであるが、今から準備をしておくことは悪いことでない。対内直接投資の環境を整えておくことは重要である。この意味で、日本が対内直接投資を倍増させることに乗り出すのは、時宜を得た政策だ。
対内直接投資は、(1)受け入れ国の市場規模(2)研究開発インフラ(3)ビジネスコスト(4)地理的・歴史的要因−で決まるという。
日本の場合、(1)と(2)は他の先進国と比べて見劣りしない。しかし、各種のアンケートによれば、(3)のビジネスコストは高く、また(4)についても、日本語や雇用環境の障壁は高い。
これらを打開するのが特区制度である。他の先進国でも、企業誘致をして対内直接投資を活発化させるのは、むしろ特定地域であり、地方自治体が先導するケースが多い。
特区制度によって地方分権を進めた後は、やる気のある地方自治体の出現が望まれる。中央省庁の壁があるとともに、地方自治体の熱意が少ないと、対日投資の倍増は難しい。特区制度がどこまで中央集権に風穴を開け、それに地方自治体が応えられるかが課題となるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)