私はかつてイギリスのボーンマスにホームステイしていた際、「ベルギーを訪れることなくしてヨーロッパを語ることなかれ」とドイツ人の友人から聞かされ、ヨーロッパの歴史を理解するには「同君連合」についても知る必要があると教わりました。
同君連合とは、例えばイギリスがイングランド王国、スコットランド王国、ウエールズ公国、北アイルランドという4つの国の連合体でエリザベス女王がそれぞれの国の君主を兼ねているように、1人の君主が複数の地域国家を統治することを言います。
今日「ヨーロッパの心臓」と呼ばれるベルギーは、フランスが爵位を与えていたフランドル伯領に始まり、ブルゴーニュ公国として栄えました。「美女中の美女」とたたえられたブルゴーニュのマリーの死後は神聖ローマ帝国(ドイツ)皇帝が君主を兼ねるという同君連合の一員となり、絶えず周辺の大国の利害と思惑が交錯した地域でした。
その結果、ベルギーは小国でありながらフランデレン語(オランダ語)を話すフランドル地域とフランス語を話すワロン地域に二分。ドイツ国境付近には少数ながらドイツ語地域も存在するため、言語戦争と呼ばれる対立を繰り返しながら今日に至っています。
その結果、首都ブリュッセルは、首都圏地域としてフランデレン語とフランス語の両方が公用語とされ、EU本部もあるヨーロッパきっての国際都市となっています。そんなベルギーの代表的な世界遺産がブリュッセルのグラン・プラスです。
この大広場はヴィクトル・ユーゴーが「世界で最も美しい広場」、ジャン・コクトーが「豊饒なる劇場」とたたえた場所で、2年に1度の「フラワー・カーペット」というイベントでは、広場に色とりどりの花々が敷き詰められ、周囲の壮麗な建物と調和して非常に美しい劇場となります。
特に15世紀に建てられたフランボワイヤン様式の市庁舎やハプスブルク家統治時代の面影を残す「王の家」のファサード(正面のデザイン)は壮麗です。この「王の家」は現在、市立博物館になっており、3階には町のシンボルでありブリュッセルの最長老市民である小便小僧「Manneken Pis」の衣装コレクションが展示されています。
世界各国から贈られたこれらの衣装を眺めていると「ヨーロッパを知りたかったらベルギーへ」という言葉に一理ある気がしました。
■黒田尚嗣(くろだ・なおつぐ)慶應義塾大学経済学部卒。現在、クラブツーリズム(株)テーマ旅行部顧問として旅の文化カレッジ「世界遺産講座」を担当し、旅について熱く語る。