大江健三郎氏も登場 祝!「九条の会」10周年講演会 ”神学論”の奥にのぞく底力 (4/4ページ)

2014.06.23


 原稿を片手に演説する大江健三郎氏 =6月10日、渋谷公会堂【拡大】

 ここまでの論者が触れたがらなかった尖閣諸島をめぐる情勢に言及したのも澤地氏だった。「いま尖閣列島のあたりで、中国と日本とがつばぜり合いをしていますね。どっちか一方が先に1発の銃弾を撃つと、撃たれた方は応戦して撃ち返すわけですね。そういう武力的な小競り合いがあったときに、だから集団的自衛権だといって自衛隊をそこへ投入して、小さな火花で終わったはずのものから戦争に行こうとしている、それが今の安倍内閣の姿勢であると思います」。澤地氏以外の論者が中国の脅威どこ吹く風で話を進めていたことに比べれば、現実に向き合ったこの発言ははるかに誠実なものであるように感じられる。

 澤地氏はさらに続けた。「あの人(安倍氏)は内閣総理大臣になったときに『わが内閣のうちに憲法を変える』とハッキリ言いました。それからそもそも自由民主党は党是に『憲法を変える』というものを持っているわけですね。でも、最近の自治体の選挙では投票率が30%もいっていないところがありましたね。ここでは自民党と公明党と、あと何か野党がくっついた候補が勝っていますけれど、70%以上の人が棄権している選挙に意味があるのかと私は思います。例えば投票率が50%を割った選挙は無効にする、といった決まりをもっと早くつくるべきでは…(盛大な拍手)」。投票率5割以下の選挙を無効とする、というのはひとつの考え方ではあると思う。ただ法律の改正でそれは可能だろうか、と考えてみると、制度実現のためには憲法改正が必要な気がしてくる。「九条の会」の方々は、そのための改憲は支持するのだろうか。

 フィリピンで終戦を迎えた作家、大岡昇平氏の言葉を引用しつつ、澤地氏はこう主張した。「私はいま、日本は小さな国になりたい(なったらいい?)と思います。なぜ金もうけをしなければならないのか。なぜカネ、カネという国になってしまったのでしょうか。武器輸出三原則も非核三原則もなしにして、という政治になっているのは、経済界の人たちがもっともっと金もうけをしたいという欲望の、そのお先走りをしているからですね。日本はこれ以上、大きな国にならなくていいんです」

 「5年くらい前に、中国の防衛費が日本を抜いて世界第2位になったという小さな記事を新聞でみました。つまりそれまで、日本はアメリカに次いで世界第2位の防衛費を持っていたんですね。でも私はいいとは思いませんが、中国が日本を乗り越えて、いずれはアメリカも乗り越えるかもしれないけれど、あの国が1949年に新しく中華人民共和国としてスタートした国として、いま『大きくなろう、大きくなろう』としている、その現れのひとつが軍備の強化ですね。そして(中国の行動は)挑発的な行為だと思いますけれど、いまこそ私たちは憲法を守る国として、『私たちは武力は全部、捨てようと思います。武力を使っての解決はしません』と言うべきときです(拍手)」

 中国の軍事大国化、そして挑発的な行為をしっかり認めた上で、澤地氏は日本は小さな国を目指すべきで、憲法の文言に従って一切の武力を捨てるべきだと訴えている。ここで必要とされるのは「日本は小さな国になる」という国民の覚悟だ。その覚悟が広く共有されるのであれば、憲法9条も安泰だといえるだろう。澤地氏は最後にこう訴えた。

 「私は自衛隊は憲法違反で、あんな人たちは災害救助隊に改組すればいいと思っています」。ここで微妙な拍手があった。直後に澤地氏が「ありがとうございました」と一礼して降壇すると、万雷の拍手が沸き起こった。自衛隊は憲法違反で解消すべきだ、という意見に対しては、会場の参加者が必ずしも賛成ではないことが示された一幕だった。自衛隊の存在を認め、当面は活用すべきだと考える人も会場には相当いることがうかがわれた。

 自衛隊が違憲だと考える人も合憲だと考える人も「憲法9条を死守する」との1点で団結しているのである。九条の会のこの結束力の高さは特筆されるべきであろう。しかも各地や各職域団体などにつくられた九条の会はその数、7500にもなるという。改憲派にはとうていまねのできない芸当だ。

 続いてこの日、出席できなかった呼びかけ人2人のメッセージが読み上げられたが、哲学者・梅原猛氏のメッセージを代読したのは渡辺治・一橋大名誉教授だった。あの演説の名手である渡辺氏をこの集会で温存していたとは! 九条の会にはまだまだ余力があることを見せつけられた思いがする。

 閉会のあいさつに立った九条の会事務局長の小森陽一・東大教授は、講演に先立って開かれた呼びかけ人会議での合意事項を報告した。「第2次安倍晋三政権が進めている解釈改憲による集団的自衛権の行使容認という、憲法そのものを壊してしまおうとする暴走を止めて、そして押し返すために、いまこそ九条の会がその持てる力のすべてを出し尽くすときだ、ということが確認されました」「日本国憲法9条の解釈改憲も、明文改憲も許さないためのかつてない運動を、全国の九条の会が力を合わせて一斉に行っていく必要があることが確認されました」

 「7500を超える全国の九条の会が一斉に立ち上がっていることが多くの人にわかるような工夫をしながら、同じときに皆が集まって行動していることが目に見えるような行動形態を、全国の九条の会の皆さんと相談しながら、秋に向けての行動提起をできるようにしていきたいと思います。1週間あるいは10日間、または1カ月間、全国で統一した行動ができるように工夫をしていきたいと思います」。7500もある九条の会が総力を挙げて行動するとなれば、これは大変なことが始まりそうだ。ともあれ憲法9条をめぐって今後、リアリティーのある議論が展開されることを期待したい。

 

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