地震で大きく揺れて震源が海底ならば、誰でも津波を警戒する。
しかし、地震の揺れがそれほど大きくなかったのに、大津波が襲ってきたことがある。明治三陸地震だ。被害は甚大だった。
地震が起きたのは1896年6月15日。今年でちょうど120年になる。震源は三陸沖だったのに、陸上での震度は秋田県で4だったほかは、三陸沿岸を含めて軒並み3以下だった。
だが小一時間後に、最大高さ38メートルにも及ぶ大津波が三陸沿岸を襲ってきたのだ。
地震が起きたのが午後7時半ごろだったから、あたりは暗くなっていた。このため、東日本大震災(2011年)よりも多い約2万2000人もの死者・行方不明者を生んでしまった。家屋の流出は約1万軒、船舶の流失は約7000隻にも及んだ。
この明治三陸地震は、特別な地震、「津波地震」だったことが近年の地震学から分かった。「津波地震」は揺れがそれほど大きくないのに大津波が襲って来る地震で、明治三陸地震は典型的なものだった。
地震が起きたときに震源から出てくる地震波の周波数には高いものも低いものもある。普通は高い周波数も低い周波数も出て、地震の規模(マグニチュード)が大きいと、両方とも大きくなる。
ところが、明治三陸地震は、高い周波数が意外に少なくて、低い周波数がずぬけて大きかった。
高い周波数とは1秒に数サイクル以上動くもので、家を倒壊させるなど震害を引き起こし、人々にも恐怖を感じさせる。一方、1サイクル動くのに何秒もかかる低い周波数は、震害は起こさないし、人々もほとんど地震だと分からない。だが、大きな津波を引き起こすのである。