安重根(アン・ジュングン)の名前は、日本の高校の日本史教科書18種中で17種が載せているという。それに比べると、尹奉吉(ユン・ボンギル)の日本での知名度は、とても低い。
尹奉吉とは、1932(昭和7)年4月29日に、上海の虹口公園で発生した爆弾テロ事件の犯人だ。事件は「上海天長節爆弾事件」とも「虹口公園爆弾事件」とも呼ばれる。
上海の虹口公園(現在の魯迅公園)で開かれていた天皇誕生日の祝典に、日本人を装って忍び込んだ尹奉吉が、会場中央に爆弾2発を投げ込んだのだ。軍人ばかりでなく外交官、居留日本人多数が死傷した。
当時は「テロリスト」「テロ」といった言葉が知られていなかったので「爆弾事件」と呼ばれたのだろう。だが、これは明らかな「無差別爆弾テロ事件」だ。
この犯人である尹奉吉(事件後、銃殺刑)が、韓国では安重根と並ぶ「殉国した愛国者」であり、「独立有功者」なのだ。
2007年12月には、ソウルで75周忌追悼式典が行われた。「尹奉吉義士記念事業会(会長・李明博次期大統領)の主催で行われたこの日の追悼式典には…」と、『朝鮮日報』(07年12月20日)は報じている。
国際会議で「テロ撲滅」を訴えた李前大統領は、韓国国内では「無差別爆弾テロ事件」の犯人を称賛する組織の長をしていたのだ。
この式典で、韓国の代表的な民族主義団体である「光復会」の会長は「上海での義挙は、わが民族の独立を求める強い願いと、韓国男児の気概を見せ付けた快挙だった」との追悼の辞を述べている。