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「機密情報を入手するには、女性を使うのが一番簡単です。男は女性の色仕掛けには弱いですからね」
韓国国防省海外情報部で、北朝鮮の情報分析を担当した元海軍中佐はこう語る。女性工作員による「ハニートラップ」は、北朝鮮の得意戦術なのだ。
2008年8月、韓国軍と警察の合同捜査本部は、脱北者を装って軍関係者に接近し、機密情報を得ていた北朝鮮の女性スパイ、元正花(ウォン・ジョンファ)を国家保安法違反で逮捕した。彼女は北朝鮮国家安全保衛部の工作員で、複数の軍や政府関係者と肉体関係を持っていた。
捜査が進むと、彼女は韓国の情報機関の要員2人に、北朝鮮の情報を提供した二重スパイでもあった。提供した情報は、北朝鮮の上司から承認されていた。本国から、要員2人を殺害するよう命令されたが、恋愛関係にあったため、実行できなかったという。まさに映画『シュリ』を地でいく事件だが、これは実話なのだ。
10年6月、韓国陸軍の軍司令部参謀長である陸軍少将が「北朝鮮との全面戦争を想定した極秘軍事作戦計画」を、北朝鮮工作員に渡した疑いで逮捕された。
このニュースを聞き、筆者の脳裏を過ったのは09年10月にソウルで開催された「ソウル・エアショー」でのワンシーンだった。
ある兵器メーカーの展示ブースでは、美しいコンパニオンが来場者と次々に写真撮影に応じていた。韓国軍の若い兵士らが満面の笑みで並んでいたところ、韓国軍高官が側近らと通りかかった。瞬時に魅惑の表情に捕捉され、それまでの威厳ある表情は崩れた。高官はただの“スケベオヤジ”と化し、美女とカメラにおさまったのである。