イスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」による日本人殺害脅迫事件は、日本社会に、テロと向き合う厳しさを改めて突きつけた。イスラム国は今後どうなっていくのか。日本はどのような姿勢を取るべきなのか。今月、『イスラーム国の衝撃』(文春新書)を出版し、中東情勢や国際政治に詳しい東京大学の池内恵准教授(41)=イスラム政治思想=に聞いた。
−−イスラム国の現状をどのように分析するか
「日本人人質事件で公開した映像が従来と比べて貧弱であるなど、これまでの様式と異なっている。イスラム国は、ヨルダン人のザルカウィ容疑者(2006年に米軍の空爆で死亡)が作った『イラクのアルカーイダ』が母体であり、今も中核となっている。拠点が攻撃されるなど、その集団の勢力が劣っているのではないか。他の組織から孤立化している可能性もある」
−−ヨルダン政府の対応が注目されている
「そもそも『イラクのアルカーイダ』は、イラクとヨルダンの政権を倒すことを目標にして出来上がった。日本で『日本政府がヨルダンを巻き込んだ』といった主張は、もちろん間違いだ。ザルカウィ容疑者は03年のイラク戦争をきっかけに台頭し、04年にはイラクで一連の斬首殺人で名を響かせた。05年にヨルダンに攻撃を仕掛け、そこで起きたのが、サジダ・リシャウィ死刑囚らが起こした同時爆破テロ事件だ。ヨルダン王政はリシャウィ死刑囚の事件を契機に、国民の意思を結集して、アルカーイダの進出を食い止めた経緯がある。ヨルダン国民とヨルダン王政が対テロで団結したシンボルでもあるリシャウィ死刑囚を釈放すると、同国内のショックは大きい」