韓国には「日本の韓国人差別と闘った義士」が、どうしても必要なのだろう。そのためには、真相を隠し、新たな伝説をつくることぐらい朝飯前。どうやら、殺人犯の金嬉老(キム・ヒロ、2011年3月死去)を「反日の英雄」から「反日の義士」に格上げするための“捏造加嘘”(ねつぞうかきょ=筆者の造語)が静かに始まったようだ。
48年前の事件といえば、60歳以上の人でなければ、はっきりとした記憶がないだろう。事件の当事者たちも次々と鬼籍に入っていく。捏造加嘘による創史には、ちょうどいい頃合いだ。
「殺人犯の金嬉老」と聞いても、若い読者は知らないだろう。
事件は1968年2月20日、静岡県清水市(現・静岡市清水区)のクラブで発生した。暴力団員から借金の返済を迫られた日本生まれの在日韓国人、金嬉老が、猟銃で暴力団員2人(うち1人は未成年者)を射殺した。そのまま、同県榛原郡本川根町の寸又峡温泉の旅館に逃げ、旅館の経営者や宿泊客ら13人を人質にして、猟銃とダイナマイトを武器に88時間、立て籠もった末に逮捕された。
彼は裁判で「朝鮮人差別」が事件の背景と主張した。無期懲役になったが、99年に仮釈放されると同時に、韓国に出国した。その際、彼のために32坪のマンションを提供したのが、現代財閥の一族で、元国際サッカー連盟(FIFA)副会長の鄭夢準(チョン・モンジュン)だ。
「反日の英雄」には多額の義援金が集まった。2001年には、韓国で結婚した妻が6000万ウォン(現在のレートで約550万円)を持ち逃げする事件が起きたほどだから。