眠り制するものが平昌を制す…フィギュア&スピード勢、昼夜逆転の異例日程 “時差”が選手直撃

写真撮影でポーズを取る小平。今大会は異例の夜間のレースとなる(共同)

 【平昌(韓国)7日=飯田絵美】平昌五輪は開会式前日の8日にスキージャンプの男子ノーマルヒル個人予選など2競技が行われ冬の祭典がスタート。今大会は日本選手団にとって時差のない、有利な環境のはずだが、フィギュアスケートとスピードスケートの選手は深刻な“時差”に悩まされている。テレビ中継を欧米のゴールデンタイムに合わせるため、普段夜に行われるフィギュアが午前中に、昼が定番のスピードスケートが夜に行われる、異例のスケジュールだからだ。昼夜逆転の選手たちは調整に苦慮。いかに効果的に睡眠を取るかが、勝負を分けることになる。

 フィギュアスケートの大会が行われるのは通常、夕方から夜9時頃まで。選手たちは当日、午前10時頃から氷上練習。一度宿舎に戻って仮眠を取り、午後に再び会場へ戻る。そんなタイムスケジュールが体に染みついている。

 ところが今大会は、午前10時もしくは10時半開始。当日の公式練習も前倒しされ、最も早い選手の場合は午前3時頃からという“超早朝”が見込まれているのだ。

 逆に、スピードスケートは一般的に日中から午後6時頃にかけて実施されるのだが、今大会はメダル候補の高木美帆や小平奈緒が出場する女子1500メートル(12日)が午後9時半という遅い時間に始まる。金メダルが見込まれる女子チームパシュート決勝(21日)も午後8時開始。

 フィギュアは人気の高い米国東海岸のゴールデンタイム、一方のスピードスケートは欧州のゴールデンタイムに合わせて生中継されなければならないからだ。

 国際オリンピック委員会(IOC)に支払われる莫大な放映権料と引き換えに、アスリートがとんだ苦労を背負わされている格好だ。

 とはいえ、不平不満を言っても始まらない。女子フィギュアの宮原知子は五輪代表に決まった直後、「普段は午前9時から練習していますが、7時15分からやることもある。朝の練習を増やしたりして対応したい」と意欲的。一方、6日に韓国入りした男子の宇野昌磨は「当日寝坊しないようにだけ気をつけて、あとはその時なるがままになればいいかな」と自然体を強調した。

 フィギュアは今季もNHK杯、グランプリファイナルなどの国際大会は例年通り、夜中心の時間帯に行われたが、スピードスケートは、“仮想五輪”として「五輪壮行タイムトライアル」(1月19、20日)を実施。午後8時~10時という遅い時間に滑ることを体に覚え込ませた。おまけに五輪会場の歓声や拍手の音を録音したものを流し、音響面からも実戦練習を積んだ。もっとも、独自の練習にこだわってきたエースの小平は、対策を綿密に練ったうえでタイムトライアルを回避。平昌入り後から夜型の生活に切り替えているという。

 選手たちは慣れ親しんだルーティンの変更を強いられているわけだが、とりわけ大事なのは睡眠をいつ、どう取るか。

 「睡眠はスポーツのパフォーマンスに大きな影響を与えます。質の良い睡眠を取ることと、体内時計を合わせることが大事です」と説明するのは、早大名誉教授で睡眠障害、鬱病、アスリートのメンタルヘルスなどに詳しい「すなおクリニック」(埼玉県さいたま市)の内田直院長。

 まず質の良い睡眠を取るには、夜の時間帯に眠ることと、寝具を選ぶこと。東部と西部で3時間の時差がある米国では、米大リーガーの多くが自分専用の枕やマットレスを持ち運び、眠りをコントロールしている。

 また、体内時計を合わせるに当たっては、一般的に午後10時~11時が最も体温が高く、良いパフォーマンスが発揮できる時間帯だという。

 となると、今大会で要注意なのは、午前中に競技を行うフィギュアスケート。「体温が高い方が筋力も上がります。午前中はまだ体温もまだ低い。午前中の試合は、他の選手も得意ではない。全体的に記録は落ちるでしょう」と内田医師は予測する。

 対策としては「早寝早起きだけでは不十分。大事なのは、朝起きたら十分な光を浴びることです。朝4時頃に2000ルクス以上の光を1時間ほど浴びると、生体リズムが1、2時間前進します。大まかにいえば、『朝が早く来た』と生体が勘違いするのです」という。市販されている高照度光の照射装置を活用するのもオススメで、箱根駅伝のトップアスリートも実践しているという。

 一方、夕方には「青白い光をカットするサングラスをかけた方が早く眠れます。生体リズムも前進しやすい。遮光カーテンもいいですね」と早めに“寝るモード”に入ることを勧める。

 4年に1度の五輪。ただでさえ「緊張で一睡もできなかった」というケースも多い中、両競技の選手たちにとってはまさに、上手に眠れるか否かが勝負の分かれ道になる。