【貴騒動を斬る】相撲人生フイにした元日馬富士…得した人間はいるか 貴乃花親方は「理事解任された史上初の親方」

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 今回の騒動で得をしたのは誰か。「そんな者は1人もいない」と関係者の誰もが口をそろえて言うはずだ。

 まず大損したのは暴行を働いた元横綱日馬富士(33)だ。直前の秋場所、大逆転で9回目の優勝を果たし「次は2ケタ優勝を目指す」と張り切っていたのに、酒に酔って脱線転覆。優勝どころか、大事な相撲人生までフイにしてしまったのだから。

 自業自得とはいえ、大相撲界に残るという将来の設計図も白紙になり、再出発するには相当な時間とエネルギーを必要とするに違いない。

 暴行現場に同席した白鵬や鶴竜も、給料をカットされた。こちらは、言ってみればカネで済む問題であり、日馬富士とは比較にならないが、キャリアに傷がついたことは間違いない。

 それ以上に重い責を負わされたのは、加害者の日馬富士の師匠、伊勢ケ浜親方(57)=元横綱旭富士=と、暴行事件が発生した秋巡業の総責任者で、被害者の師匠の貴乃花親方(45)=横綱=だった。

 伊勢ケ浜親方の理事辞任や、理事選の出直し立候補辞退はやむを得ない。弟子の監督責任は免れないし、辞任してわずか2カ月足らずで立候補しては筋が通らない。

 問題は貴乃花親方だ。九州場所千秋楽の打ち上げのあいさつの中で、貴乃花親方は「他の部屋の力士が傷を負ったとしても、同じことをしていた」と話したが、本当にあそこまで相撲協会の介入を拒否し、かたくなに突っ走っただろうか。あの怒りの裏には、貴乃花部屋の力士だから、自分のまな弟子だからこそ、被害者意識があり、やられたらやり返す、という強い思いが働いたのではないか。

 いずれにしても、貴乃花親方は自説を曲げなかったために「理事を解任された史上初の親方」というまがまがしいレッテルを貼られ、理事落選の憂き目にもあった。

 最大の損を被ったのは被害者の貴ノ岩に尽きる。痛い思いをした上、番付も下がり、いまだに十分な稽古ができずに苦しんでいる。

 こうしてみると、いさかいからは何も生まれないことが改めてわかる。相撲協会もこのことを肝に銘じて、厳しく再発防止につとめるべきだ。

 ■大見信昭(おおみ・のぶあき) 1943年8月30日、鹿児島県生まれ、74歳。70年フジ新聞社(後に産経新聞社と合併)入社。大相撲を中心に取材歴50年に迫る。